秋のある日のこと

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 今日もマリアは第三校舎と第四校舎の間に広がる芝生の上を大股で走っていた。芝生で寝転がる上級生や、校舎間を歩いているすれ違った下級生たちは「突風か?」と思うほどの早い走りに「あれなら人間界でもスポーツ選手でやっていけるよね」と半ばあきれるように冗談めいて話している。  タッタッタッタッタ――。  マリアは息も切らさずに第四校舎の一階を突っ切ると、第五校舎のらせん階段を降りてくる二人の生徒の姿を見つけた。彼女たちがマリアの探している友人だった。 「ナオミ! ハナ! やっとみつけたぁ!」  マリアは両足で急ブレーキをかける。二人がふり返ると、マリアの勢いで起きた風に彼女たちの髪が大きくなびいた。 「また走ってきたのか。常々思うが、マリアの前世は闘牛じゃないのか」  ショートヘアーにすらりとした長身痩躯の魔女――しかしそれは彼女が〈女性である〉ことを知らないと、ひと目見ただけでは魔女ではなく壮麗な魔法使いだと錯覚してしまいそうな聡明な雰囲気――は、ローブの下に伸びる長いスラックスの足を左右組み変えながらまっすぐに立つと、あきれ顔でマリアを見下ろし、ため息をついた。  すると横に立つツインテールの小さな少女は満面の笑みで手をのばした。 「はいはい! ハナはー、マリアの前世をお馬さんだと思います」 「なるほど。つまりマリアは、鼻先ににんじんがぶら下げられた馬だったんだな」  ナオミが妙に納得した表情でうなずくものだから、マリアは「ちょっとちょっと、私の前世も来世も魔女です!」と頬を膨らませながら主張した。 「っていうか、なんで食堂にいないのさ! 待っててくれると思ったのに」  マリアはそう言うと、背負っていたリュックからつぶれたサンドイッチを取り出して食べはじめた。 「食堂を探しても二人ともいないんだもん! 校内のあちこちを探したよ!」  するとナオミがふふん、と鼻を鳴らすように笑った。 「食堂にいたさ。でも待つのも大変なんだよ、ぜんぜん来ないんだから」  ナオミが「なあ?」とハナに同意を求めた。ハナは「あははー」と笑っている。 「マリアの補習は日常茶飯事ですけど、それに付き合わされるハナたちも大変なんですよー。マリアを待ってる間ずっと食べてたら牛さんになっちゃいます」 「う……そ、そんなに時間掛かってなかったと思うけど……」  マリアはそっと視線を反らすと、ナオミが「そうかな?」と言ってうで時計をマリアの方に見せた。 「補習は三十分かからない、なんて言っていたが……さて、今は何時だ?」 「う……」 「おかしいな、補習が終わると言っていた時間からすでに……ほほう、二時間経過しているぞ? もうすぐ午後の授業が始まってしまう」 「だ、だから、ごめんって!」  開き直ってヘラリと笑うマリア。その笑顔を見ると、ナオミもハナも怒る気が雲散してしまう。 「まあいいさ。それより、授業に向かおう。次の授業は第二校舎の屋上だ」  ナオミが教科書やノートが入ったトートバッグを肩にかけて歩き出す。それに続くようにハナとマリアも歩きだした。
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