秋のある日のこと

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 今日の午後の授業は〈星読み〉だった。惑星や星の動きと自分の誕生したときの星の位置との差異を測って、未来予知をしていくという内容だ。未来予知も、教師のようにプロになると数時間後から遠くて数年先まで読めるというが、今年から受講し始めたマリアたちには半日先もうまく読み取れずにいた。  担当のスタンリー先生がドレスのように長いローブを引きずりながら、席に座っている生徒の間をゆっくり歩いては、生徒たちの描く未来予知の精度をみていた。  ナオミの背後に静かに立つと「ふーーーーーーーーーん」と長く推敲した末に「ここ」とレポート用紙を指さした。 「あなた、ここの星の位置がずれているわ。だから〈宿題が終わらない〉、つまり時間が足らないということだけれど、一週間の猶予ができることになるわ。それだけあれば宿題も終わるのではなくて?」 「あ……ホントだ――そうですね、ハイ」  ナオミは星読みが得意でないと言っていた。しかしセンスはあるらしく、正確に読み取れるようになれば優秀な成績を修められる、と以前スタンリー先生は彼女を褒めていた。そのせいか、ひんぱんに細かい直しをチェックしてはナオミを贔屓している。  逆に、ハナはそのおっとりした性格から星を眺めること、そして星読みの授業を好んでいたが、どうも筋が悪いようす。未来予知を十個したところで一つが予知した未来に掠るかどうか……ぐらいの精度だった。スタンリー先生はデキの悪い生徒に対してはみな一様に「ええ、ええ。そんな感じで引き続き読んでみましょうね」としか答えない。  ちなみにハナは「明日、マリアと一緒にずぶ濡れる」という未来予知をした。となりに座るマリアは「どうか外れますように」と祈るしかない。 「マリアさん。星読みはいかがかしら?」 「あー……。ハイ、デキマシタ」  スタンリー先生はマリアの書き散らした星読みのレポートを受け取ると、スーッと目を通した。 「星の位置は正確に読めていますね。しかし、未来予知の内容があいまい過ぎていて、これでは人間の天気予報のようなものですわ」  マリアは首をかしげる。それは「当たっている」と言っているのか、それとも「ハズレても同然」と言っているのか、どっちだろうか、と。 「マリアさんは宿題の他に、これらの未来予知が当たったかどうかの正誤レポートを出すように」  ――つまり「当たるか分からないから、後日に結果を教えるように」とのことだった。マリアは増えた宿題に内心で舌打ちしながら「分かりました」とうなずいた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加