秋のある日のこと

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 マリアは人間と魔女のハーフだそうだ。  だそうだ、というのは、両親の顔も覚えぬうちに二人が失踪したからだった。  有名な魔法使いや魔女が一斉に失踪した事件が十五年前に発生。マリアの両親もその失踪事件に巻き込まれたらしいのだ。しかし、魔法の使えぬ普通の人間が巻き込まれたのは、マリアの父だけだった。なぜ? という疑問だけを世間に残して、事件は未解決のままだ。  その後、オーロラの目を持っていたことから速やかに魔法使い・魔女の孤児が集まる養護施設へと入れられた。そして特例で十歳から魔法学校に住みこみ、十一歳になって正式に魔法学校の生徒となった。  オーロラの目を持つ者は、魔法学校でも十年に一度ぐらいしか現れないまれな特質だった。しかも感情で魔力の増減が影響されるために、早いうちから魔力の制御――つまり感情の制御を身に着けさせないといけないというのが、魔法界での常識。  マリアは活発な性格ではあったけれど、生後の両親の失踪と養護施設での生活から、感情のセーブは自然と身に付いていた。しかし、それが仇となってしまい、逆に感情を高ぶらせること――魔力を増幅させるのが苦手だった。  魔法学校の教師たちは〈オーロラの目を持つ者は吉凶を選べぬ〉という古くからの言い伝えを知っていた。オーロラの目を持つからこそ、優秀な魔法使いにも最恐最悪の魔女になることもできるということだ。だから教師たちはマリアに対しひんぱんに課題を増やし、補習をさせて〈吉の魔女〉つまり優秀で魔法界に貢献できる魔女にさせようとしていた。  それをマリアはナオミから聞いて知っていた。ナオミの両親は魔法学校の教師と教授だった。そのため、学校の裏側もナオミは幼いころから知っていた。  両親の仕事場であるために、ナオミも就学前から魔法学校に住みこんでいた。その縁でマリアと仲良くなったのだが、ナオミはマリアと出会った当初(かわいそう)と思っていた。マリアは……オーロラの目を持つ彼女は、〈選ばれた魔法使い〉である――両親がそう言うたびに、ナオミはマリアが哀れだった。そして何者でもない〈普通の魔女〉である自分がよほど恵まれていると思っていた。  最初の付き合いは同情からだった。それが時を経るうちに無二の親友へと関係が変わっていった。
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