秋のある日のこと

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 星読みの授業が終わったときには、もう空は真っ暗だった。星もかがやく夜空の下を、三人は校舎間をつなぐ渡り廊下を進んで食堂へと向かって歩いていた。すると、食堂から寮へ向かう途中らしい三人組の男子と遭遇した。  途端にマリアとナオミは「ゲッ」と眉をひそめた。 「あ、マリアたちじゃん。今から食堂? お疲れさん」  金髪の長身男子は「よっ」と手をかかげた。同期だがマリアたち三人とは別の寮生、カイルだ。するととなりの茶髪男子のダンが、ケラケラ笑いながら手を振った。 「ちゃうちゃうって。きっと二度目の食事に行くんや。オーロラのおめめ様は魔力の消費が激しいさかい、燃費が悪いんやで」  西の訛がきついダンのうしろから、黒髪で細く長い一本のおさげを垂らしたリーが「女の子にそんなこと言うなよー」と言葉だけの注意をしている。 「そうだ、ハナ。おばさまから差し入れが届いたよ。ハナからもお礼を言っておいて」  リーはハナの方に近づくと声を掛けた。リーとハナは同郷で、親戚同士なのだそうだ。しかもどちらも大富豪。どこか似た雰囲気を持つ二人に対して、ほかの四人の間ではどこからともなくバチバチと火花が散る音が聞こえるようだ。 「カイル、あんた何回補習をサボれば気が済むの? 倍の補習を受けさせられる私の身にもなってよね」 「でもマリアと違って僕は優秀だからさ。補習サボってもちゃんと実戦で実力発揮できてるしぃ?」  カイルはそう言って長い前髪をかき上げた。すると右目にはマリアと違うかがやきのオーロラが光った。  そう、カイルも片目だけとはいえオーロラの目を持っている魔法使いだった。 「私より魔力も〈かがやき〉も弱いくせに、よく言うわ」 「はあ? 制御してるだけですからー」  マリアとカイル、バチバチの二人の横ではナオミとダンもにらみあっていた。 「この男女、無駄に高い身長どこまで伸ばせば気が済むんや? なんや、星でもつかむ気ぃか?」 「はっ。このエセ西野郎、もっかい停学食らって故郷に帰りやがれ」  普段は澄ましているナオミも、ダンを相手にすると言葉が荒れる。ダンはダンで、ナオミより背が低いことを気にしていた。わざとナオミに身長でつっかかるところがおバカである。  ナオミが勝ち誇ったような顔で言った。 「そりゃ成長の止まったダンには、私の身長がうらやましいんでしょうね」 「男女、無駄に高いとかわいげがないで」 「別にかわいくなりたいなんて思いませんから?」  二組のバチバチとした様子に、ハナとリーは顔を見合わせてため息をついた。そして「お互いに大変だね」と視線で労いあう。 「ほらー二人とも。ハナはお腹が空きました。食堂に行きましょうよ」 「ダン、カイル。僕らも明日の宿題を済ませないといけないだろ?」  四人はようやく我に返ると、分かりやすいように顔を反らしながらすれ違った。ハナとリーだけはにこやかに「またね」とすれ違う。 「ハナは良いよね、あんな優しそうな人が同郷の知り合いなんて。って言うか、幼馴染なんだっけ? あれ、従兄妹?」 「なんにしても、私たちに比べたらずっと良い」  ナオミとマリアはそう言いながら食堂に入った。食堂は奥まで広く、中心にテーブルと無数のイス、両方の壁際にずらりと食事が並んでいる。ビュッフェスタイルだった。 「まあまあ。カイルくんもダンくんも、悪い人じゃないよ」  ハナがなだめるようにそういうとナオミとマリアは同時に深いため息をついた。 「わかってない! アイツ以上の悪い奴はいない」  ナオミとマリアは揃ってそう言った。あまりにも一言一句同じセリフを言うものだから、二人は顔を見合わせて吹きだした。 「本当、早く卒業してあの顔を見なくて済む職場に行きたいものだよ」  マリアは煮込みハンバーグをさらに山と積んでいく。その隣でナオミはサラダをうずたかく盛っていく。ハナは二人を見て(見た目は正反対なのに、中身はそっくりなんだから。そんな二人がハナはうらやましいです)としずかにほほ笑んでいた。
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