秋のある日のこと

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 翌日の午前、最後の授業は体育だった。  魔法使いの体育とは何かというと、まあいろいろあるのだが、今日は水上サッカーだった。  魔法学校では下級生のころからほうきなど道具を使って宙に浮く感覚を覚え、だんだんと道具を小さくしたり手放していき、魔力のみで宙に浮く練習をしていく。マリアたちのように五年生にもなるとすでに最終段階で、地上以外のところ――たとえば水上や火の上を歩けるようになる。  今日の体育では、第六校舎内のプールに水を張り、水の上に魔力で浮いている状態でサッカーをしていく。宙に浮くだけでも、魔力は少しずつ消費される。魔力が削られていく中でも動けるようにという、体力向上と魔力の維持・制御が目的の内容だった。  魔法使いが宙に浮くには、魔力が必要なのは当然として、その高さや距離に合わせて魔力の制御が必要となる。水上とはいえ、全力の魔力を間違って出してしまえば、プールの天井を突き破ってしまうし、気を抜いたらプールにドボンだ。しかもここのプールは深いので、一度沈むと浮かび上がるのは並大抵のことではない。  運動神経が抜群なマリアは、体育が好きな授業だった。しかし、今日の水上サッカーのように魔力の制御をしながらの運動は得意でない。すこし緊張した面持ちでプールの水面に立った。 「プールを半分に区切って、コート二面にしてサッカーを行う。五人でチームを組んで。組めたところからユニフォームを受け取るように。黒板のトーナメント表にユニフォームカラーが表示されるから、それに従って順番に試合を始めるように。以上!」  体育教師がプール上に一本の赤い線を引いた。レーザーのような線で触ってもケガはしない。ただのコーナーラインだ。そしてキレイに消されている黒板に大きなトーナメント表を映し出していく。  マリアはナオミ、ハナと共に同期で同じ寮の男子二人と一緒にチームを組んだ。魔女だけ、魔法使いだけで五人組を組んでいるチームがいる中で、マリアのチームは男女和気あいあいとしていた。 「おい、マリア。お前のチームに男子がいるなんて、卑怯じゃないか?」  赤色のユニフォームを着たマリアの背後に、青色のユニフォームを着たカイルが立っていた。 「あら、いたんだ」 「午前は同じ授業だろうが。ふざけんな」 「なんかニオうと思ったわけだ」  ナオミが嫌そうに目を細めた先には、リーの肩に寄りかかったダンがニヤニヤと笑っていた。 「第二試合、Bコートで俺たちと試合や。俺らは第一試合ないけど、あんたらは第一試合も出場のようやな。しょっぱなからドボンするんじゃないで? びしょびしょの敵と戦いたくないわい」  ダンはそう言うとカイルが「おいおい、ダン。言い過ぎだよ」と言った。 「マリアはそういうプレッシャーに弱いんだ。責めるんじゃないよ」 「あかんかったかー。あちゃー」  ダンもカイルも笑いをこらえながらプールサイドを歩いていった。リーだけが「まあ、気負わずに。しょせん授業中のゲームなんだしさ」とマリアたちに言うと、ゆっくり二人のあとを追っていった。 「ヤな感じ」  マリアは眉を寄せてイヤな顔をした。ナオミはハナに向かって「絶対に勝つからな」と宣言。見守っていたハナと二人のチームメイトは苦笑しながら「がんばろうね」と言った。
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