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【フィーリングでそんな事を言うか馬鹿。そもそもいまだにヤツの力はわからん事が多いと言うのに】
真紅は吐き捨てるように言うと、そのまま俺を見下ろした状態で話を続ける。
【まぁ、先ほど貴様が言った通りでな。今貴様が宿るその肉体だけで無く、渋谷を中心に他の者の視界を、私の認識下に置く事が可能になった。と言っても1時間程度しか持たないがな】
真紅は、指先を目力の無いサイタマみたいな瞳に向けてそう言った。
レベル5ダンジョンの底の底。「九頭竜」の最深部にいる真紅は、基本的に外の情報を得る事が出来なかった。
とは言え、彼女自身の魂に宿る魔力が膨大であった為か、ダンジョンから外へと放出される魔素を通して、僅かな情報を得ていた。
と言っても彼女の場合は魔法界絡みでの情報しか得られていなかった訳だけど。
それこそ俺とイナバにレベル5ダンジョンを攻略しろ、なんていう無茶振りをしたのも、結局俺にレイニアを救わせ、仲間にさせる為だった訳だし。
しかし、そんな彼女が唐突に「動画編集が〜」だのどうだの言い出した時点で、何となく想像はついていた。
そもそも魔力さえ通せばいいんなら、俺で無くとも代用は効く筈だからな。
真紅は、俺が死ぬことによって容量値が底上げされた魔力を使用し、肉体の改造、そして外の世界へ視界を繋げた──という訳だ。
「……で。そこから何でサザキユウマに繋がるんですか? 俺としてはもうアイツには会いたくないんですけど」
【何度言っても忘れるようだから何度だって言うぞ? 貴様に拒否権は無い。私がやれと言ったら貴様はやらなければならない。わかってるよな?】
ジッ、と。覇気の無い視線を向けられた俺は、蛇に睨まれたカエルの如く、指一つ動かす事ができなかった。
くそ、実際は俺のカラダの筈なのに、痩せて筋肉ムキムキになってからは俺じゃ無いみたいだ。何なのあれ? マジで刃●とかケン●ンとか、そういう格闘バトル漫画に出てくる人みたいになってるじゃん。
このままだと、魔法云々で殺されるよりも、素で殴られて撲殺されそうだったので、黙って話を聞くことにした。
【……これは、たまたま私の根城周辺を通りがかった佐崎悠真の関係者と思われる女が言っていた事なんだが。どうやら佐崎とやら、4月の中頃から学校に来ていないらしい】
「……4月の中頃、ってもしかして、俺とライラが接触したあの日から?」
俺の問いに対し、真紅は曖昧に頷いた。
【所詮、視界とその他微弱な感覚を繋げられた程度だ。声は聞こえても何と言っているのかわからない事もいまだに多い。しかし、その女は酷く落ち込んでいる様子だったからな】
「要するに雰囲気でそう判断したって訳ですか……。いや、でも心当たりはあるな……」
俺は腕を組みながら思い出す。
あの時、佐崎悠真と、そして神崎紫音と名乗る男。
確か紫音という男がこう言っていた。
「最近、彼女と会えてないから機嫌が悪い」と。
そして、真紅が話した内容。一人の女性が、佐崎が学校に来ていない事を憂いているという話……
って、それもう確実に「あの子」じゃないか。
【ああ、そいつだ。九条由依という女だ。そいつも確かDチューブか何かをしているのだろう?】
「今、俺の脳内に映し出した絵と一致させたでしょう……」
イナバもそうなんだけど、この人たちはどうしてかうも勝手に人の考えてる事を盗み見たり聞いたりするのだろう。
そのせいで、こちとらエッチな妄想も出来ないんだぞ。……なんて事を考えた途端、真紅の表情が鈍く歪んだ。はい、変なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。
「……で。俺たちは何をすればいいんでしょうか?」
【この話の流れでわからんとは言わせんぞ。──恐らくだが、佐崎レベルの探索者が動かなくてはならない何かが起きている。そして、貴様達が接触した謎の魔法使い共。そいつらがこの数日息を潜めている点も非常に気になる。……そうだろう? オウカ】
いいえ私は気になりません……と、これまでならそう言い切っていただろうけど、今は確かに気になる。
というか、メレフ達が何をしようとしているのかわからない中でダンジョン配信をしている訳だから、いつ襲撃されるのかわからないという問題は孕んだままだ。
そんな状態のまま、ライラやトバリ達を向かわせるというのは、俺としても望んじゃいない。
……くそ。ここに来て真紅の試練に賛同する事になるとは……!
【ふん。私が与える「試練」であるとよく認識しているな。──という訳だオウカ。貴様はこれから佐崎悠真の行方を探れ。恐らくその先に奴らがいる】
真紅はそう言い切ると、今度は有無も言わさずに意識を切ってきた。
今度会った時、切断厨呼ばわりしても許されるよな?
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