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第74話「Sランク探索者の彼女 九条由依」
「……起きて早々何を言い出すかと思えば。なに? 今度は佐崎悠真のカノジョでAランク探索者兼Dチューバーの九条由依に会いに行きたいですって?」
── 2032年5月6日 木曜日の19時27分。
ふと目を覚ますと、此方の顔を覗き込むレイニアとライラの姿があった。
俺は慌てて起き上がり、早々に「何があったのか」を語ることにした。
此方を覗き込んでいた顔が、明らかに心配そうな表情を浮かべていたので何とか言い訳をしなくてはならない──というのと、真紅から与えられた新たな試練について話さなくてはならない……という、二つの考えがごっちゃになった結果。
『二人とも聞いてくれ。俺たちは明日、佐崎悠真のカノジョ、Aランク探索者兼Dチューバーである九条由依に会いに行く!』
……という、「考えていた事」がそのまま口からこぼれ落ちてしまった結果がコレである。
心配そうな表情を浮かべていた二人の顔は、みるみるうちに困惑色に染まってゆき……。
レイニアは怒りを、そしてライラに至っては呆れた表情を浮かべて帰っていった。
「……あの子。途端に倒れたあんたの事をすごく心配していたのよ。それにあの子だけじゃなくトバリもね。あとついでにアビス」
アビスはついでなのか……。
「それでもあんたに言われた通り、ダンジョン配信はしなきゃって、トバリと二人っきりで向かったの。本当は私もついていく予定だったのに、あんたが急にぶっ倒れたから『見ててあげて』って。なのにあんたは起きて早々に、謝るでも無く女子高生に会いに行きたいだなんて……!」
ゴゴゴゴゴ……、という効果音が響いてきそうな程の圧を放っているレイニアに、俺はそのまま布団の上で土下座した。
本当にすみませんでした……! いや、でもその九条由依に会おうって言うのは、別に変な意味じゃなくて。真紅から新たに与えられた試練を考えると、彼女と接触して話を伺うのがいいと思って……。
『よくもまぁそこまで言い訳が出るぴょんね。情けなくて涙が出るぴょん』
土下座状態でレイニアに何と言って許しを請おうかと思案していると、脳内にいつもの白ブリーフ変態男の声が響いてきた。
コイツ、人が必死に頭下げてる時に……!
「まぁまぁ。少し落ち着くぴょん。確かにオウカの中身はしがない無職のおっさんだけど、彼に女子高生と出会ってナニかするような度胸も勇気も無いぴょん。だから彼の発言にヨコシマな意味は無いぴょんよ」
イナバはそう言いながら寝室に入ってきて、レイニアを嗜めた。いや、フォローするにしても言い方ってもんがあるくないか? ……っておい。レイニアも何で今ので引き下がってるんだよ。
「……とりあえず、話をさせてくれないか? あとお前らの誤解を解いておきたい」
俺はレイニアに頭を下げた状態でそう言った。
このままだと、あらぬ疑いをかけられたまま蔑まれる事になる。
それは今後の活動において非常にイタイので、俺は懇願するようレイニアに縋りつきながら謝罪した。
※ ※ ※
「──真紅の新しい試練が、佐崎悠真と接触すること……ですって?」
19時40分ごろ。
既に食事を済ませていたらしい二人が、俺の分の夕飯を用意してくれていた。
俺は用意された食事に手をつけながら、意識を失っていたあいだ、再び真紅から試練を与えられた事を伝える。
まぁ、毎度の事ながら「試練」という名の無茶振りだけど。
「うん。どうも魔力制御が出来るようになった真紅は、魔法界絡み以外の情報もキャッチできるようになったみたいでな。聞いた話じゃ、佐崎悠真は4月の中頃から学校に来てなくて、そのままGWに入ってしまったんだと」
「そこで彼氏に会えなくて憂いている九条由依を見つけたと……」
新しくなったテーブルの上に、そっと三人分のお茶を運んでくれたレイニアが神妙そうな顔で呟いた。
「……で。何で九条由依に会おうって話になんのよ? 飛躍どころか何処かに不時着してるじゃないの」
と、至極当然の疑問を投げかけられる。
そりゃそう思うよな。だからこそ俺も言葉が足りなかったというか……いや、色々と足りて無さすぎたな。
「要するにさ。真紅が佐崎悠真と接触しろと言ったのは、彼がいるその先にメレフ達の影があると睨んでいるんだ。だから彼の居場所さえわかれば、もしかするとメレフ達に繋がる何かを掴めるかもしれない。けど、彼の居場所なんてイナバですらわからないんだ」
「──だから、唯一彼と深い繋がりを持つ、この件に一切関与していない九条由依と接触して居場所を特定しようと? 中々無茶なことを考えるぴょんね」
イナバはお茶を啜りながら呑気に語った。
お前に無茶なことを〜とか言われたくないけどな。
そんな恨み節を心の中でぶつけてると、レイニアから「会ってどうすんの?」と問われる。
どうするのかって……Dチューバー同士が会ってすることなんて、一つしか無くないか?
「コラボだよ」
「「…………は???」」
「だから、コラボだよ。コラボレーション。他のDチューバーだってよくやってるだろ。だから俺たちもそれをしよう。ってか俺たち、よくよく思えば活動初めてからまだ誰ともコラボしてないしな」
飯を平らげ、お茶を飲みながら一息ついていると、二人から「コイツマジで言ってんの?」的な視線を向けられている事に気がついた。
もしかして俺、また何かやっちゃいました?
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