第75話「九条由依の憂鬱」

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第75話「九条由依の憂鬱」

「……はぁ。悠真くん、今日もお仕事か……」  人混みの多い渋谷スクランブル交差点──があった場所にある巨大な建物を見上げながら、一人の少女がボソリと呟いた。  ここに来れば会えるんじゃないか?   ──という淡い期待を胸に足を運んだのだが、どの道Aランク探索者でしか無い彼女に、レベル5クラスのダンジョン──たとえ関門所であったとしても──に入る事は出来ないし、入れたところで悠真に会えるとも限らない。  どちらにせよ、彼女が心から愛している少年、佐崎悠真に会う事は叶いそうにない。  そんな冷たい事実のみが、彼女の心を満たしていった。  日本各地に7つあるレベル5ダンジョン。  その内の二つ、北海道のさっぽろテレビ塔のある場所に出現した【氷獄】。  そして沖縄の国際通りに出現した【炎峰鮹(エンホウダコ)】は、今年の4月頃より活動を始めたマジカル☆ガールズという魔法少女系Dチューバーにより攻略(消滅)されたが、その他5つのレベル5ダンジョンはいまだ健在している。  佐崎悠真は、現在残されたレベル5ダンジョンを転々と回っている──との事だった。  転々としている理由は、()()()()()()彼女には話すことが出来ないらしく、今現在どこのダンジョンにいて、何をしているのかは、悠真から知らされていない。  しかし、レベル5ダンジョンのある区域で度重なる魔力災害や、関門所や探索者ギルドで何者かの手によって襲撃されたといったニュースを見るに、何か良からぬ事が起こりつつあるのは、情勢に疎い彼女でもある程度察しがついていた。  ──そして恐らく、彼はそのいざこざに巻き込まれてしまっている事も、何となく理解していた。  故に、仕事の邪魔をする訳にはいかないので連絡も最低限に済ませ、かつ彼が今何をしているのかについても深く聞かないようにしている。  多忙を極める悠真からの返信は少ないが、たまに送られてくる景色の写真と、「好きだよ」という短くも暖かいメッセージをもらうだけで、彼女の心は満たされ、これまで何とか耐える事が出来ていた……が。 「……忙しいのはわかる。わかるけど……でも、でももう限界だよ。──悠真くんに、会いたい……」  スマートフォンに視線を落とす。  そこに表示される、二人で撮った写真を眺めながら、Sランク探索者の彼女である九条由依は、ビル風に靡く長い黒髪を抑えながら、今にも消えそうな声で呟いた。  彼と会えなくなってから、どれだけ経っただろうか?  4月の中頃、まだゴールデンウィークに入る前から既に会えていない事を考えると、二週間近く彼の姿を見ていない事になる。  たまにする通話や、彼が送ってきてくれる写真だけが、彼がこの世界に実在している事を認識する(すべ)だ。  少し重い発言に聞こえるかもしれないが、彼はSランク探索者であり、今はレベル5ダンジョンを転々としている身だ。  もしもダンジョンに潜って探索をしているんだとしたら、彼程の探索者であっても、死ぬ可能性が0になる事は絶対に無い。  いくら彼の持つスキルが強くても、無敵じゃない。「死んでも蘇る」くらいのチートスキルであるんなら、恐らくここまで心配はしていないだろう。  とは言え、いくら心配したところで、由依が悠真に出来る事は、現状何もない。    一応、由依も探索者であり配信者だ。やる事が無いならダンジョンに潜って、少しでも気晴らしにでも行こうか……とも考えたが、こんな思い悩んでいる状態でダンジョンに潜るのは、自殺行為に等しい。  彼に会いたい。けれど会えない。  ではダンジョンに潜るか。けど、この状態で潜るのは危険だ。  どうする事も出来ずに、由依は一人その場で立ち止まる。  ──そんな中。彼女のスマートフォンに、一件の通知が表示された。  由依は、何だろうかとその通知を見てみると、思いがけない人物からのメッセージが届いていた。 「──く、クリムゾン・ブロッサム!? え!? こ、コラボしませんかって……え、えぇ!?」    
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