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第77話「Sランク探索者 佐崎悠真の決断」
元々、ここ最近頻発しているレベル5ダンジョン絡みの事件については、「彼女たちが関わっているのではないか?」という疑問の声が幾つか挙がっていた。
というのも、ゴールデンウィーク中に「日本各地のダンジョンを回る」などという無茶苦茶な企画を立てており、それで実際に各地のダンジョンで配信を行っているのだ。
一日目は東京 品川区。
二日目は、そう遠くは無い奥多摩市。
そして三日目以降は、福岡に沖縄、大阪から京都と、様々なダンジョンに足を運び、そこでダンジョン配信を行なっていた。
ダンジョンは、各都道府県で出現するモンスターが変わってくる特徴があり、同じ個体でも色違いや習性の違うモンスターまで存在する。
そうした理由もあってか、彼女たちの配信は常にランキングトップをキープ。
たった1時間しか潜れないダンジョン配信であるのに、「目新しさ」「珍しいモンスターが見る事ができる」GWダンジョン配信企画は功を奏し、チャンネル登録者やSNSのフォロワー数も劇的に増えたらしい。
らしい、というのも、Xを開けば必ずトレンドに上がってきてしまうので、嫌でも彼女たちの名前を視認してしまうし、如何に世間を騒がせているのかがわかってしまうのだ。
それを思い出した悠真は、思わず舌打ちをし、慌てて周りに誰もいない事を確認する。
彼は普段なら品行方正で通わせているので、そうした怒りや苛立ちといった、他者から見たらマイナスに思われるような態度はとらないようにしていた。……心を許した相手以外では。
(……これがただの逆恨みなのはわかってる。わかってるけど……っ!)
悠真は、スマートフォンに映る由依と、その周囲で楽しそうに嗤う悪魔の申し子たちに、暗い視線を落とした。
彼女ら「マジカル☆ガールズ」が現れてからの彼女──九条由依は、何というかパッとしない。
そんな事を彼氏である悠真が思う筈は無く、当然そうした感想を溢しているのは、ネット上に蔓延るアンチである。
彼らが言うに、彼女の人気が落ちたり、勢いが無くなったのは【彼氏が出来たからだ】との事だった。
【やっぱ男ができた途端に面白くなくなるよな〜】
【つーか元々面白くもなかったしw逆になんで登録者160万人もいるの?w】
【どうせ登録してるやつ全員九条由依のおっぱい目当てだろ笑】
【ダンジョン探索も殆どしてなかったし、戦闘面じゃゴミみたいな魔法しか使えないしな。こんなんでAランク探索者なれるんなら俺はSランク探索者になれそうだわw】……などなど。
心無い言葉を吐く連中が極端に増え、そしてそうした感想を呟いているアカウントに限って、必ずと言っていい程「マジカル☆ガールズ」を追っかけているファンが多かった。
──いや、わかってる。
彼女たちマジカル☆ガールズに何の落ち度も無いし、それこそ何も悪いことはしていない。それはわかっている。
ただ…………あまり心象が良くないというだけで。
マジカル☆ガールズは、何の目的があって由依とコラボしようと考えたのか。何か裏があるんじゃないか。
そんなマイナス方面に思考が移ってしまうくらいには、悠真は彼女たちに対する信頼が無かった。
それは、彼女たちのファン層がだいぶ終わってる──もとい、厄介なオタク達を味方につけてしまっているのもあるかもしれないが、それこそ彼女たちはGW企画の初日に潜ったというダンジョンで、とある騒ぎが起きていた事をシオン経由で耳にしていた。
それは結局、彼女たちが起因するものでは無かったようで、その後は特にこれといった問題も発生していない。
だから由依がマジカル☆ガールズとコラボする事を了承しているのであれば、いくら彼氏だとしても口を挟む権利は無いし、もし「コラボしないで!」なんて言ったら別れを告げられてしまうかもしれない。
何故なら由依は、マジカル☆ガールズの隠れファンだからだ。彼女たちの存在をきったのは、由依から教えて貰ってからだった。
『見て悠真くん! この子たち魔法少女系Dチューバー何だって! すごく可愛い!』
そう言って笑っていた彼女を思い出し、少しだけ心に余裕が生まれるが、その余裕はすぐに霧散する。
スマートフォンに目を落としたまま、彼は腕を組みながら思考の海にダイブする。
──マジカル☆ガールズ側が、由依とコラボするうまみがわからない。
彼女らがデビューしたのは今年の4月で、まだデビューから1ヶ月程しか経っていないのに、Dチューブのチャンネル登録者数は250万人を超えている。
活動を始めて1年目の悠真で140万人、2年目の由依ですら160万人程度だ。二人の登録者を合わせてようやく彼女たちの登録者を追い越せるくらいだが、恐らく300万人程度はすぐに超えてしまうだろう。
それを考えると、ますます意味がわからなくなる。
彼女たちマジカル☆ガールズが、彼氏である悠真と出会えない状況下にわざわざ由依に近づいたその意味が。
しかし、考えれば考えるほど、坩堝にはまってしまう。「少し不安だからコラボしないで!」なんて言える筈もないし、かと言って何のうまみも無く彼女とコラボする理由が無いのもまた事実。
となると、やはり裏が……?
悠真の思考は、完全にがんじがらめになっており、思考すればする程に脳内は不安や焦りで満たされていく。
そうこうしている内に時間だけが経過し、1時間たった22時過ぎ頃、悠真はとある決意を固めた。
「──よし。仕事サボろう」
「品行方正」とは、一体どこに消し飛んだのか。
彼女のためなら何処までも落ちていく覚悟を決めた悠真は、人知れずミーティングルームを後にした。
「明日一日、不在となります。文句はうけつけません」という、あまりにも雑な書き置きを残して……。
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