第80話「緊急コラボ企画☆マジカル☆ガールズ+由依!」③

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第80話「緊急コラボ企画☆マジカル☆ガールズ+由依!」③

 ──2032年5月7日。13時15分頃。  俺たちは挨拶や打ち合わせもかねて、近くにあったファミレスに訪れていた。   「えへへ〜! ウチ由依ちゃんの隣〜! あっ、由依ちゃんって呼んでいい?」 「えっ? ああうんっ、大丈夫だよっ! えっと……」 「ああ、ウチの名前? ウチは先導(センドウ)──」 「ちょっとラ──ボルテックス・ホロウ! 私たち以外の人に本名晒すの禁止でしょう!? なに平然と正体明かそうとしてるの!」  注文したドリンクを飲みながら、俺は目の前に座る九条由依を、かけていたサングラス越しに見ている。  因みに席は6人ほど座れる座席で、正面は左からライラ、九条、由依、そしてその隣がレイニア。  その反対側となる席には俺とトバリがついている。ライラがどうしても九条由依の隣に座りたい!と主張していたので、彼女にお願いして隣同士の席についた。  にしてもライラのヤツ、まさかここまで九条由依のファンだったなんて思いもしなかった。  九条由依はクラフト系のDチューバーで、倒したモンスターの素材を使ってアイテムを作り、その過程を動画にしたり配信したりして人気を博している超人気インフルエンサーだ。  アイテムと言えば、ダンジョンで役立つ武器や鎧といった装備品、魔鉱石やモンスターの持つ効果を付与した素材で作ったトラップを思い浮かべるかもしれない。  けど、この前俺が作ったネックレスのように、服やアクセサリーといった装飾品の生成も立派なアイテムである。  アイテムに付与される効果よりも、どちらかと言えば見栄えというか、「可愛い」とか「綺麗」とか、ダンジョン探索において意味の無いクラフトになってしまうのだが、効果付与の無いものはダンジョン外への持ち運び(私的利用)が可能なので、自分でお気に入りの服やアクセサリーを作るために【クリエイト】のような素材加工場に足を運ぶ女性は多い。  中でも彼女、九条由依はそうした女性達の心を掴むほどの腕前で、様々なアイテムを生み出してきている。  アイドルレベルの容姿に、男なら誰もが二度見してしまう程の双丘。もうそれだけで人気インフルエンサーになれそうなものだけど、彼女にはアイテムクラフトの才能があったのだ。  結果、160万人を超える登録者、そして100万人を超えるSNSアカウントを持つ先輩配信者。  そんな彼女が、今俺たちの目の前にいる……。  ライラは彼女が活動を始めた1年前から見ていたと言っていたぐらいだから、あれだけテンションが上がってしまうのは仕方がないか。だとしても本名をバラしたり、帽子やマスクを完全に取っ払うのはやめて欲しいけど。 「でも、飲食店に来ておいてマスクしたままでは何も食べられないのでは……?」  と、隣でハンバーグ定食なるものを注文していたトバリがそんな事を言い出した。この子、なにガッツリ食べようとしてんの……?  「……あ、あのっ。私はその、別に顔を見ても、誰かに言いふらしたりはしない、というか何というか……」  滅多にこういう所に来ないのか、隣でジュースをすごい勢いで飲んでいるトバリを睨んでいると、正面に座っていた九条由依が緊張した面持ちで主張した。 「いや、お気持ちは嬉しいんですけど……って言うか、九条さんこそ変装とかしなくて大丈夫なんですか? 九条さんレベルになると、やっぱり声をかけられるんじゃ……」  質問に質問で返す──では無いが、個人的に気になっていた事を聞いてみる。  というのも、この席だけおかしな事になっており、変に人の目を引かせてしまっていた。  超絶美少女が、帽子やマスクをつけて顔を隠したミニスカート集団を引き連れてお茶をしている。この時点で相当おかしな状況である事は、傍目から見ても誤魔化せないだろう。        しかも、謎のマスク少女達に対するのは九条由依だ。  一切変装していない彼女は、当たり前のように人目を引いている。そうなると当然声もかけられそうだと思うのだが……。 「ああ。えーっと、そうだなぁ。その件については、えっと……」 「あれ、おじさん知らないの〜? 由依ちゃんと悠真くんが付き合い始めたばかりの時、嫌がらせかあてつけか、由依ちゃんに言い寄る男が増えたんだよ〜。そしたら悠真くんが、その場でブチ切れて……」 「ちょっ……!? ぼ、ボルホロちゃん! その話はダメ! 悠真くんからしないでって言われてるの〜!」  ──事の顛末をボロボロと語り出すライラを、九条は慌てて止めようとしていた。止められたところでどうなったのかはわかるし、恐らくそのブチ切れのせいもあって、彼女に近づく男がいなくなったのだろう。  そりゃ、日本が誇る最強のSランク探索者を敵に回したい男なんざいないだろう。  ……と言っておきながら、俺たちは最悪佐崎悠真を敵に回す可能性があるんだけど。  俺はその事実を思い出し少しだけ身震いするも、今更引き返せないので、とりあえずそのまま話を進める事にした。    
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