第81話「Aランク探索者 九条由依の魔法」

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第81話「Aランク探索者 九条由依の魔法」

 それから30分ほど。  俺たちははじめに、コラボ企画でする配信や動画撮影に関して話をした。  まずは俺たちに何が出来るか、そして彼女に何が出来るのか、認識の擦り合わせが必要だと感じたからだ。  と言っても、俺たちマジカル☆ガールズに出来ることなんて、基本的に「モンスターと戦う」ぐらいしか無い訳だけど……。 「へぇ〜っ! でも本当にみんなSランク探索者なんだね〜!」 「えへへ、そうなんだぁ〜! ねぇ〜由依ちゃんもっと褒めて〜☆」  すっかり帽子とマスクを取ってしまったライラは(※一応サングラスはしてる)撫でてもらおうと頭を差し出していた。  ライラの相手との距離の詰め方に関しては見習うところはあるけど、お前は少し自重しろ。  なんて思っていたのだが、心優しい九条さんはライラの頭を「よしよ〜し」と言いながら撫でてあげていた。なるほど、ああ言えば頭を撫でて貰えるのか……。  等と考えてると、正面に座っていたレイニアから脛を思いっきり蹴られた。  その瞬間「ぴぇっ」という声が出てしまい、慌てて口を抑える。この冷徹暴虐女め……。  俺が涙目で足をさすっていると、それに気付いた九条さんが「どうかした?」と声をかけてくれた。レイニアよ、お前に足りないのはこういった優しさだぞ? 「ああいや、足をブラブラさせてたら、テーブルの柱に脛をぶつけちゃって。あはは〜……」 「あ〜、スネはぶつけちゃうと痛いよね……。ああ〜、ここがもしダンジョンなら、私の回復魔法で痛みも消せるのに……」  治せなくてごめんね?と、本当に申し訳なさそうに謝ってくる九条さんに、俺は慌てて(かぶり)と手を振った。  元はと言えば全部レイニアが悪いんだから、九条さんが謝ることなんて何一つ無い。  ……って、でもそうか。  今こうして彼女の話を聞いて思い出した。そう言えば彼女が使える魔法は【回復魔法】。    それも、Aランク探索者の操る回復魔法だから、魔法効果の範囲は相当に広い筈だ。  俺は気になって、彼女が「何処まで傷を治せるのか」聞いてみると、指を頬に当てながらゆっくり思い出すように語ってくれた。 「えっと、とりあえず外傷全般は治せるかな。切創に刺創、擦過傷に咬傷とかいろいろ。あと、まだ治した事も無いしあまり見たくもないけど、切断されたりした手足も、無くなったりしてなかったらくっつける事が出来るみたい。あとは──」  それから彼女は、自身の扱える回復魔法の効果範囲について語ってくれた。  治せるのはどうやら外傷だけでなく、モンスターや薬物によって受けた毒や、風邪等といった病。他には精神的な疾患を和らげる癒しの魔法も会得しているらしい。  どれもこれもが驚きの内容だったが、彼女はそれを淡々とした口調で語っていた。  それを聞いた俺たちは、彼女の持つ魔法の効果範囲の広さに愕然とした表情を浮かべていた。  ライラに関しては隣で「すっご〜い!」とどこぞのフレンズばりにはしゃぐレベルだ。  けど、事実本当にすごい魔法だ。  ダンジョンにパーティーで潜り込んだ際、回復薬等のポーションが無くても、彼女がいれば回復アイテムが無くて済むという訳だから。    しかし、どうやら話はそれだけでは無いようで。 「あ、あと何でかはわからないんだけど、私が回復魔法を使うと、私が消費した分の魔力が相手の方に移るみたいで。傷だけじゃなく、失われた魔力も回復してるって。これは探索者ギルドの職員さんからも『初めて確認された事例です』って言ってたかな」  何それ怖い。いやすごい。  そう考えると、彼女が俺たち「マジカル☆ガールズ」にいてくれたら幾つかの問題が解決するんだよな。  俺に関してはいくら傷を負っても、というか死んだとしても生き返るし、何より傷も全部治る。けど他の魔法少女たちはそうはいかない。    一応、魔力を外部から込める事で多少の傷は回復できるし、魔力量も増やせる。  けど完治まではしないし、何より俺の魔力量も無尽蔵じゃない。  そう考えると彼女をマジカル☆ガールズに引き込む──というのは、流石に後が怖すぎる。  それに、彼女は恐らく回復魔法ぐらいしか使えず、これといった攻撃魔法はほとんど使えない──というよりかは使わないって感じだった。  倒すモンスターも、ダンジョンレベル1、2程度のものばかりで、レベル3に入ってるところは見た事が無い。     彼女のダンジョン配信が極端に少ないのは、それが影響している。でもそう考えると、彼女とのコラボでやれる事は色々ありそうだな。 「……もし良かったらですけど。レベル3ダンジョン、一緒に潜りますか?」  俺が恐る恐る尋ねてみると、彼女は喜びやら不安やら、それらがない混ぜにした表情を浮かべ……。  最終的には、期待いっぱいといった顔で「よろしくお願いします……!」と頭を下げてきた。  その「よろしく」には、初めて潜るという意味の他に、自分は戦力になりませんよという声も含まれているようにも聞こえた。    だから俺は、「大丈夫ですっ!九条さんは何があっても守りますから☆」と、魔法少女らしく言った。    そうして、俺たちはコラボ企画での話を詰めていき、話を纏めた。  さて。ここからようやく本題。  どうやってサザキユウマの情報を聞き出すかだ。
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