第三章 ぼくのねがい

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第11話 要注意 ”戦谷紀央” 「え……」  僕は思わず手を止める。1番上にある紙に見覚えのある名前を見つけたから。すぐにその紙が何について書かれているものなのか確認する。人の名前が一覧になって書かれている。左上にはかろうじて聞いたことがあるくらいの田舎の地名が載っていた。続く言葉は読めないけれど、必死に漢字を覚える。 「おい、何やってんだ」  はっと息を呑んだ。僕は今仕事中で、今は依頼人の家にいることを自覚する。恐る恐る顔をあげると、怒りに歪んだ青年の顔があった。  要注意。  その理由の一つは依頼人の息子が引きこもりで、夜中に出入りする眠り屋に好意的ではないことだった。 「すみません、おとしてしまって、ぼくはーー」 「泥棒か!!!! おいっ!!」  バシッ!!!!!  素早く飛んできた拳が、僕の頬を叩く。衝撃で尻餅をついた。自分のバッグが下敷きになる。僕は子供だから、眠り屋とすら思われてない。それは非常にまずかった。 「くそっ!! くたばれガキ!!!」  振り上げられた片足を見て、僕はバッグを握ってすぐに家を飛び出した。静かな住宅街に怒鳴り声が響く。それが聞こえなくなるまで、僕は走り続けた。眠り屋になってからたくさんのお仕事をしたけれど、途中で逃げることになるなんて、初めてだった。  電車の時間を待つ間に捕まってしまう気がしてただただ走った。  外が明るくなってきた頃にようやく見慣れた街並みに景色が変わる。本社に戻って今日のことを伝えたら、みんな怖い顔をした。謝るとまたそうじゃないと怒られる。もうあの家には二度と行くな、あの人に依頼は受けさせないとまで言われて、僕はとぼとぼとロビーに向かって椅子に座り込んだ。  寝ていないはずなのに全く眠くならない。 「……っ」  どうしよう。やっぱりもう一度謝りに行こうか。そしてご飯を作って、のっくを返してもらって。 「おい」  見慣れた声が聞こえた。顔を上げるとこっちをじっと見ている。 「あ、にばんさん」 「呼び方……ってか、どうしたその顔」  成績二位のにばんさんだ。お仕事の後なのか疲れた顔をしている。僕の顔を見てびっくりしているみたいだった。
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