第三章 ぼくのねがい

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第12話 探していた居場所 「ーーどうしたその顔」  にばんさんに聞かれる。 「きのうはようちゅういのかたのおうちで、むすこさんにおこられてしまって」 「はあ!? 報告はあげたのか?」 「はい。ぼくはきのうのかたのいらいは、このさきうけられないことになりました」 「当然だろ。殴るなんて、眠り屋利用停止でもいいくらいだ。いい。次そいつの依頼は俺が行く」  ぶっきらぼうにそう言ってくれる彼はすごく格好良かった。乱暴だけど、僕の頭を撫でてぎこちなく笑ってくれる。 「あの」 「どうした?」 「のっく、おいてきてしまって。もしあのひとのおうちにいくなら」 「ちっ……わかったよ。とりかえしてきてやる」 「ありがとうございます。のっくはびひんをもらうところでくりーにんぐにだしてほしいです」 「あぁ、わざわざクリーニングしてんだ?」 「はい」 「じゃあ、クリーニング中は……ああ、そういうことか」 「はい。今日はこののっくと依頼に出掛けます」  クリーニング仕立てののっくは石鹸のいい匂いがする。僕はこの匂いが大好きだった。 「その前に、ちゃんと手当をしておけ。次の依頼人もびっくりするだろうが」 「そうですね、ありがとうございます」  困ったような顔で乱暴に湿布を張ってくれた彼の優しさを、僕は忘れたくないと思った。  そして数日が経って、僕は魔法のようにパソコンを使える彼の家に向かった。ちょうど依頼がきていて、僕を指名してくれていたから、会うのは簡単だった。  僕の初めて依頼人。冬馬くん。彼は僕の顔を見て、何かがわかったらしい。すぐに話を聞いてくれた。依頼人は冬馬くんなのに、なんだか変だなと笑った。 「これで君は自由になる。君に入っていた依頼はうまくずらしたよ」 「ありがとうございます」  僕が必死に覚えた漢字の話とそれをメモした紙を見て、彼はすぐに場所を調べてくれた。『戦谷紀央』。僕の母親についても調べてくれたけど、そこまでは載っていなかったらしい。でも居場所がわかるなら。それだけで十分だった。 「おい、待て」  お母さんに会いに行く日は目前まで迫ってきた。  ロビーを歩いていると、にばんさんが僕を呼び止めてくる。息をはあはあと切らしているから、走ってきたのだろう。
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