第三章 ぼくのねがい

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第13話 僕の答え 「アンタ、怪我はもういいのか?」 「はい。もうすっかりよくなりました」 「ならよかった。あの家に一昨日行ってさ。依頼人、すげぇ謝ってたぞ。のっくも無事帰ってきて、クリーニングに出せてる」 「そうでしたか……ありがとうございます」 「もうアンタは要注意を受けるなよ。子供にやらせていい仕事じゃないだろ」  僕が首を振ると、にばんさんは大きくため息をついた。怒らせてしまったのだろうか。お話を変えたほうがいいかもしれない。 「そういえば、おかあさんがみつかりました」 「え、ついに?」  母親の話に変えると、彼は驚いて目を見開いた。 「はい。すうじついないにあいにいくつもりです」 「そりゃ良かったな。アンタ、毎日引っ張りだこなのに休みもらえたのか?」 「おしごとはだいじょうぶです。なんとかできますので」 「なんとかって……どうすんの?」 「ひみつです」  彼は疑うように僕を見る。 「アンタ休む代わりにその後の予定詰め込んだんだろ」 「そんなところです」 「程々にしとけ。また風邪ひくだろうが」 「その節はーー」 「だからどこで覚えてくんだよそんな言葉!!」  ごめんなさい、にばんさん。僕はあなたに嘘をつきました。  僕はお母さんに会ったらもう、依頼に行きません。  冬馬くんから教えてもらった場所は、随分と行くまでに時間がかかって、すごく人が少ない。  本当にこの先が僕の目的地なのか疑うくらいに、草木が広がるだけだった。 「やっとあえたね」  ひろい、ひろい原っぱで、やっと名前を見つけた。ほうっといきを吐いて近づく。黒くてぴかぴかとした石に、見覚えのある名前があった。いつどこで名前を聞いてもお母さんの手がかりだと気がつけるように、必死に覚えた字だった。 「ずっと……みつからないのは、ここでねむっていたからなんだね。ずーっとここで、ひとりでいたから。ねえ、おかあさん。やっとあえた。おかあさんそばでねむるひが、きたようです」  ゆっくりと横になる。温かい日差しが、僕とお母さんに降り注いだ。  本当は、誰かに見守られて寝たいって思っていたんです。もし叶うなら、お母さんに。のっくを抱いて、その上から抱きしめてもらいたいって思っていたんです。 「のっく。おかあさんですよ。やっとここまできました」  のっくのおかげでいっぱい集まった、眠りの欠片。僕のバッグにはそれがたくさん入っていた。  依頼人に薬を使わないことで、僕はひとつの大きな選択肢を取ることができる。 「のっくのおかげです」  これが僕の願いで、僕の答えだ。
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