最終章 永久退職

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最終章 永久退職

第14話 嘘 「はあ……」  朝が来て、俺の仕事は終わる。乱れたシーツを整えて、お別れのキスをして、備品を受け取りに会社に向かった。最近は備品の減りがやけに早い。体を張れば張るほど、それは顕著だ。 「お。トップ2じゃん。おはよ」 「本当だ、本社来るなんて珍しいね〜」  社内で俺はトップ2と呼ばれる。それは正しいし、成績が2位であることは正直誇るべきだが、前にいる人間がお子様なのだから激しく癪だ。呼ばれるたびに嫌でもアイツの顔が浮かぶ。嫌いじゃないが、とにかく癪なのだ。 『君がどうやって客を寝かしてんのか知らないけどさ、俺にも2位たる所以ってもんがあんのよ」 『そうですか。では、どうやっているんですか?』 『それは、君みたいなお子様にはまだ早い』 『?』  自分のやり方に反吐がでる。あんなことをしないと俺は、トップ2の成績を維持できないのだから。依頼人に体を捧げて、俺の毎日は過ぎていく。  だからぬいぐるみ一つで俺を超えるあいつを見て、むしろ気が抜けたのを覚えている。ああなんだ、こんなことで負けていたのかと思い、それは早とちりだと気がついた。彼の纏う空気や仕草が全て依頼人の睡眠に収束する。子供だとナめてはいけない。自然体に見せかけて、嘘だらけ。だけど紛れもなくプロの仕事だった。  彼の鞄は相変わらず膨らんでいた。他の依頼人が抱きしめたぬいぐるみはそのまま次の依頼人には渡さないのだろう。おそらくのっく〇〇号がたくさんいて、クリーニングが終わった個体を持ち出しているのだ。 『そういえば、おかあさんがみつかりました』 『え、ついに?』 『はい。すうじついないにあいにいくつもりです』 『そりゃ良かったな。アンタ、毎日引っ張りだこなのに休みもらえたのか?』 『おしごとはだいじょうぶです。なんとかできますので』 『なんとかって……どうすんの?』 『ひみつです』  子供らしくない笑顔が向けられる。コイツが嘘をつく時の癖だった。一応嘘にはノってやる。 『アンタ休む代わりにその後の予定詰め込んだんだろ』 『そんなところです』 『程々にしとけ。また風邪ひくだろうが』 『その節はーー』 『だからどこで覚えてくんだよそんな言葉!!』  これも嘘。なら何をする気か? そもそも母親はずっとコイツの前に現れなかった事情を抱えているはず。今更すんなり会えるとも思えない。嫌な予感が多く浮かんだ。
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