第二章 風邪

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第8話 家族の責任 「とりあえずは眠ったみたいだ。今夜の任務は完了だな」 「…………」 「おい?」  違和感を感じて目線を合わせる。嫌な予感はどうやら的中らしい。 「そう……ですね。ぶじにおわってよかっ……た」 「ちょ、……っと」  彼が倒れる軌道に手を差し出すと、そのままぽすりと体が乗っかる。思ってたより軽くて細くて、勢いで抱き寄せてしまった。 「熱上がってんじゃん」 「……っ」 「ったくもー。家買えよ……」  息が上がっていて、彼は答えない。子供にこんなこと言っても仕方ないか。悪いのはどう考えても放っている周りの大人や家族だ。  手から伝わってくる温度がひどく熱い。寝付けないのか目を開けたり閉じたりを繰り返していて、こっちも落ち着かない。俺はポケットから薬を取り出す。今日の依頼人は子供と聞いていたから一応計量した子供用の量だ。それを彼に見えるように差し出す。 「眠れないならこれで眠らせてやるよ。水持ってきてやるから」 「ちょっと、…まってください」 「なんだ?」  俺の腕を弱々しく掴んで彼は首を横に振る。何が欲しいのかはわからないが、話は聞いておくことにした。 「あしたの、しこみをしましょう。ちょうしょくがぼくの、おぷしょんなんです」 「はあ? 何言ってんだ。今は休むことが先決だろ」 「いいえ。ぼくのねむりやとしてのおしごとをするのがゆうせんです」 「お前……」  なんなんだ、この子供は。本当の馬鹿なのか。  それとも、教えてくれる人がいなかったのか?  多分、後者だ。彼には家族がいないから。そばで世話を焼いてくれる大人はいないから。  戦谷が母親を探しているのは社内で有名な話だった。今でも十分子供だが、今よりさらに幼い頃に生き別れ、会社も協力しているがなかなか見つからないと。海外に行っているという説が濃厚らしいが、彼はあきらめずに国内を探しているようだ。自分を置いて遠くにいくわけがないとでも思っているのだろうか。 「せいせきにばんさんなら、おぷしょんのだいじさを、わかってくれるはずです」 「あー……クソ」  確かに彼の言うことは一理ある。人を満足させるには、決められた方法だけでは足りない。そもそもマニュアルの対応で補えない人もいれば、基本サービス以上の特別扱いを好む人もいる。相手を想い、相手の状況や意を汲むスキルがなければ、眠り屋で成績を残せない。  次の依頼を呼ぶために俺も必死になった。そして今の方法でのし上がっている。 「しゃあない。手動かすから指示して」
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