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食事をしている聡の部屋からも、正面玄関の出入りは良く見える。
食事も終え、ベランダにある椅子に向かい合って座り、部屋に常備された缶チューハイを二人で飲み雑談をしていると、
「あれ、直樹さん何処に行くのかしら」
不意に愛子が川田を見つけそんなことを言って来た。
しかし、聡が窓の外を見た時には既に見えなくなっていたので、二人は特に気にもせず、その後も愛子の会社での出来事や、川田夫妻の結婚前の話を互いにバラシあうことで盛り上がっていた。
そして、 午後8時を回ろうとしていた時である。聡の部屋に三奈美がやって来た。
「うちのひと来てない?」
「えっ?いや来てないけど?」
聡が応える。
「あっそう・・・何処に行ったのかしら?もう1時間位見当たらないんだけど」
愛子が思い出したように、窓の外を指さす。
「さっき、旅館から出て行くのを見たわよ、何時頃だったかしら」
「本当?」
三奈美は不思議そうである。
「多分1時間位前だと思うけど」
聡が応える。
「この忙しい時に何処に行ったのかしら?聡さん達がいらしているから早く仕事を終わらせようって言ってたのに」
三奈美は困惑した表情を浮かべる。
「携帯は持ってないの?」
「それが、置きっぱなしで出て行ってるの。だから直ぐに戻ると思ったんだけど…全くしょうがないなぁ〜」
そう言い、戻って行く三奈美。
それから一時間が過ぎ、心配顔の三奈美が不安がを募らせた顔で再び聡の部屋にやって来た。
「昼間のお巡りさんの話しが気になるんだけど。良く考えるとね、いなくなり方が似てるの。それに、あの人今まで黙っていなくなること無かったし」
「警察に連絡しましょ!もし、戻って来たら、みんなで頭下げればいいよ」
愛子の言葉に背中を押され、三奈美は電話に手を伸ばす。
丁度その時である。聡の鼻を心地良く擽る芳しい香りが風に乗って窓から流れ込んで来た。
どこかで嗅いだ記憶のある匂いである。
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