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幻覚
湧水のある場所まで導かれると、聡にはそこが全ての欲望を満たす楽園に見える。
女はその流れの畔で足を止め聡を見つめると、ズボンのポケットの膨らみを見て、中の物を出すように促して来た。
聡は言われる通りに左のポケットから小瓶を取り出し、女に差し出すが、それは違うと言わんばかりに、聡の手は払われてしまう。
女の要求は、現実のつながりを絶たせるめの携帯電話なのである。
払われた手から落ちた小瓶は、石にぶつかり割れてしまい、中から液体が零れ出る。
辺りはそのニンニクの臭いで覆われる。
すると、聡の視界が変わって行く。煩悩が映す幻覚の世界が現実の世界に戻って行くのである。
キツネは慌てて零れ出た液体に後脚で土を掛け始めるが既に遅い。
「ここは…何処だ」
突然森の中に居ることに驚いた聡は、思わずそう声に出そうとするが、口が麻痺して上手く喋れない。
そして、聡は妙な音がするのに気付き、そちらに目を向ける。すると、聡は直ぐに更に驚きの光景を見てしまう。
ネコと舌を絡める若者が居るのである。更に、その横ではタヌキに覆いかぶさり腰を振る者、裸でへびと戯れる者までもが居て、そしてもう一人。
「あっ!カワタ」
川田は上機嫌でカワウソに手を回し、しきりに湧き水を飲み、雑草を美味しそうにつまんでいるのである。
聡はその光景に奮えが止まらない。
川田の行動を止めたいが、泥酔状態の様にふら付いてしまい思う様に歩けない。もどかしさだけが募って行く。
その時である、お尻のポケットが震えメロディーが流れた。有名な焼肉のタレのコマーシャルソングである。
夕食の直後、愛子と携帯番号を交換した際に、強制的に設定させられたのである。
それを聞いて、キツネの目付きが変わる。
周りの動物達も顔を上げ聡の方を向いている。
聡は急いでスマホに手を掛けるが、身体に怠さがあり中々上手く掴むことが出来ない。
しかし、何度か試みると、何とかスマホを掴むことに成功する。
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