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「良かった、繋がった」
愛子の声からは、心配と電話が繋がった安堵が伝わってくる。
「タ ス ケ、が 欲しい、川田も いる」
聡は助けを得るチャンスとばかりに何とか声にするも、状況を上手く伝えることが出来ない。しかし、そんな言葉にも愛子は冷静だった。
「今、何処?危険はないの?」
「ちょっ と キケン か も。ドコカははわからない」
「近くに何かない?」
「ミ、ミズがワキでていて、オガワに… あっ 、カコマレた」
その時キツネがスマホ目掛けて、飛びついて来た。
「あっ!」
聡は手を引っ掻かれスマホを落としてしまう。右手の甲にキツネの爪痕が残り赤く滲む。
「もしもし、どうしたの、もしもし…」
スマホから愛子の声が響き渡る。
キツネはその声を煩そうに、器用にも前足で電源を切る。
「やば、襲って来るのか?」聡はそう思いながら、自由の利かない体で身構える。
しかし、獣たちはなかなか襲っては来ない。どうやら敵意がある訳ではなさそうである。そのまま小康状態となる。
そこへ聡の様子に違和感を持ったテンが、再び麻痺させようとピンク色の花を加えてやって来た。
「そうか、この香りのせいなのか…」
そう気付いた聡は、顔を背け極力浅く息をしながら考える。
「そうだ」
聡は左のポケットにそっと手を入れ親指と、人差し指に力を込め一本持っている瓶の蓋を開ける。
瓶の蓋を取り中指を入れると、ぬるっという感触がした。
夕食の時の使い残りが、未だポケットに入れたままであったのだ。
「きっとこの匂いで、俺は目覚めたんだ」
聡はそう思い、すぐ横に居るキツネに隠れてポケットから左手を抜くとその手を鼻に当てる。すると、麻痺していた体が和らぐのを感じる。
「やっぱりだ」
聡には焦りながらも、身体の痺れが取れるまでの時間をやり過ごす方法を考始める。
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