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父が出かけた家に、母と二人。
「さて、二人で掃除に洗濯、夕食の準備、一気にやっちゃいましょ。私がいるうちに、私の家事スキルを受け継いでもらうわよ!」
少しも座らないうちに、母が動き出す。
そう、いつだって母は忙しなくしていた。
私はそんな母の姿が毎日同じように見られるのが当たり前だと思っていたから、手伝いもせずに好き勝手していたものだ。
「お母さん、少し休まない?」
「何言ってるの、もうすぐ選択が終わるから、それまでに掃除機までかけ終わるよ。洗濯物は放置しすぎるとしわになるから、早めに干す!」
家事は、本当に休む暇もなく、動きっぱなしだった。
値を上げた私に、母は笑いながら頑張れ、と応援する。
「……お父さんね。」
そんな大変な家事をしながら、母が口を開く。
「釣り、行かなくなったでしょ。」
「……そう言えば。」
母が生きていた頃は、休日になると朝早くから釣りに出かけていた。
釣り以外の趣味がないと言っても過言ではなかった。
そんな父は、きっと私の記憶に残る限り、母の死後は一度も釣竿を握っていない。
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