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「昨日、いろいろ話したのよ。」
母が、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべ、私に言う。
「私は専業主婦だったから、家事は長い年月をかけて少しずつ慣れていった。でもお父さんは、私が死んじゃってから急に家事をやることになった。それでいきなり私くらい家事が出来ればなんて言ってるから、笑っちゃったわよ。それで言ってやったわ。仕事してるのに、専業主婦と同じ家事が出来るわけないじゃないって。」
何も言えなかった。
そんな事、私も分かっていた。
私が父を遠ざけていたのは、家事が出来なかったからじゃない。
「それでもお父さん、出来なくちゃダメなんですって。あなたに惨めな思いはさせたくないし、お母さんがいないことであなたに何かを諦めて欲しくないんですって。お父さんの手、見た? アイロンがけと料理で、なんであんなに火傷するのかしらってくらい、火傷だらけ。不器用よね~」
母が笑ながら言う。
「でも、分かってあげて。お父さんも一生懸命なの。家事なんて全然できない。それでもあなたに負担をかけたくなくて必死にやってる。お父さん、あなたに『手伝って』って言ったこと、無いでしょ?」
確かにそうだった。
『大丈夫』『何とかする』はいつも口癖のように私に言っていたけれど、手伝うように言われたことは、ただの一度もなかった。
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