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一瞬眉根が寄ったソルに不安を覚えながらも、イリスはペアのティーカップを取り出して紅茶を淹れた。
「んん~美味し! 生き返るね~ソル~」
「うん、そぉだね……」
何故だかソルに元気がない。先ほどまで楽しそうにケーキを作っていたというのに。
「どうしたの、ソル?」
「……ねえイリス」
ソルはチビチビと飲んでいた紅茶を置き、ぽつりと言った。
「私さ、今日、すっごく迷惑だったよね……」
「え」
「イリスみたいに手先が器用なわけじゃないし、料理が上手なわけでもない。むしろ下手。今日もほとんど全部イリスがやってくれた……」
「ソル……」
「こんなんじゃ、レジーナ様に『ソルはなんにもできない』って思われちゃうよ……」
自分で言った言葉が心に突き刺さったのか、ソルは言葉を言い終わらないうちにうつむいた。
「そっか、そんな風に思ってたんだね。不安にさせちゃってごめんね」
うつむいて肩を震わせるソルの姿はあまりにも儚く、イリスは胸が締め付けられるような思いがした。
「でも聞いて。私だって、ソルみたいに元気で明るくいられるかって聞かれたらそんなことはない。ソルみたいに歌やダンスが上手かって聞かれても、そんなことない。というかものすごく下手っぴ。ソルみたいにすぐに人の気持ちに気づけるかって言われても、そんなことはない」
イリスがぽつりぽつりと言いながら、彼女のサラサラとした黒髪をなでていると、ソルが顔を上げた。目元がほんのりと赤くなっている。
「私たち、お互いに得意なこと、好きなことが正反対なんだよ」
「正反対……ってことは、二人で一緒なら最強コンビ……?」
「ふふ、そうだね」
瞳の色も、菜の花色と空色で正反対かも、と互いに微笑みあっていると、オーブンがピー、と音を立てた。
「スポンジできた!?」
「できたよ。ソルが作ってくれたスポンジ! 二人で飾り付けようか」
「やったぁ!」
二人は大慌てでカップを片付けた。
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