villaln1:悪魔の契約者

3/8
前へ
/34ページ
次へ
 目の前の相手には声が聞こえていないらしく、おかしそうに嗤う。苦しみから空は自分の頭がおかしくなったのかと思ったが、再び聞こえてきた声にこれは妄想ではないんだと確信した。 『いいだろう。なら、契約だ。おまえの魂を差し出せば、我が力を授けよう』  それはまるで“悪魔の囁き”。自分の魂を差し出したらどうなるのか、空にわかるわけもなく、悩む時間もない。それでも、今目の前のピンチを脱せるのはこれしかないと、空は一か八かの賭けに出る。 「ああ!俺の魂でよければくれてやるよ!」 『契約成立だ』  その瞬間、空の背後に黒い何かが現れた。それはまるで悪魔のような出立ち。そして2人の体が光り出す。空を掴んでいた目の前の相手はニタリと嗤うと、そのまま空の頭を地面に叩きつける。そして、その衝撃で空の頭が割れて脳みそや血が吹き出る……なんてことは起きなかった。 「へ?」  いったい何が起きたのか、空にもそして空を喰らおうとしていた相手にもわからなかった。ただ、空の体は無事なまま。女性だったはずの相手と一定の距離を保って、自分の足で立っている。 「は?人間何しやがった」 「え、いやいや?俺にも何が何やら?」 「ふざけやがって……」  相手は憤慨して今にも襲いかかってきそうだ。空はあたふたするが、相手は止まらない。一瞬で空の目の前にきたかと思えば、今度は空の首を締めた。 「あがっ……ぐっ」 「死ね人間」  込められる力に空はまたしても“死にたくない”と強く願った。するとまた、先程と同じように空は相手と一定の距離を保って立っている。 「は?え、なにこれ……」 「人間お前まさか……悪魔と取引しやがったのか」 「取引……」  相手の言葉を反復して空は考える。確かに何かと会話をして『契約成立』だと、『お前の魂を差し出せば力を授ける』と。つまりはそういうことなのだろうか?
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加