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目の前の相手には声が聞こえていないらしく、おかしそうに嗤う。苦しみから空は自分の頭がおかしくなったのかと思ったが、再び聞こえてきた声にこれは妄想ではないんだと確信した。
『いいだろう。なら、契約だ。おまえの魂を差し出せば、我が力を授けよう』
それはまるで“悪魔の囁き”。自分の魂を差し出したらどうなるのか、空にわかるわけもなく、悩む時間もない。それでも、今目の前のピンチを脱せるのはこれしかないと、空は一か八かの賭けに出る。
「ああ!俺の魂でよければくれてやるよ!」
『契約成立だ』
その瞬間、空の背後に黒い何かが現れた。それはまるで悪魔のような出立ち。そして2人の体が光り出す。空を掴んでいた目の前の相手はニタリと嗤うと、そのまま空の頭を地面に叩きつける。そして、その衝撃で空の頭が割れて脳みそや血が吹き出る……なんてことは起きなかった。
「へ?」
いったい何が起きたのか、空にもそして空を喰らおうとしていた相手にもわからなかった。ただ、空の体は無事なまま。女性だったはずの相手と一定の距離を保って、自分の足で立っている。
「は?人間何しやがった」
「え、いやいや?俺にも何が何やら?」
「ふざけやがって……」
相手は憤慨して今にも襲いかかってきそうだ。空はあたふたするが、相手は止まらない。一瞬で空の目の前にきたかと思えば、今度は空の首を締めた。
「あがっ……ぐっ」
「死ね人間」
込められる力に空はまたしても“死にたくない”と強く願った。するとまた、先程と同じように空は相手と一定の距離を保って立っている。
「は?え、なにこれ……」
「人間お前まさか……悪魔と取引しやがったのか」
「取引……」
相手の言葉を反復して空は考える。確かに何かと会話をして『契約成立』だと、『お前の魂を差し出せば力を授ける』と。つまりはそういうことなのだろうか?
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