113. 絢爛たる舞踏会

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113. 絢爛たる舞踏会

 足場の悪い中、苦労しながら斬り進んでいると急に断面が石になった。いよいよ屋敷にたどり着いたようだ。  俺は深呼吸をしてはやる気持ちを落ち着かせると、そーっとナイフを入れた――――。  明かりだ!  俺は高鳴る心臓の鼓動を聞きながら、切り口をゆっくりと広げながら中をのぞく……。 「はぁっ!?」  俺は思わず声を出してしまった。  なんと、そこに広がっていたのは、たくさんの美しい女性たちの舞う姿だったのだ。  俺は唖然として凍りつく。管理者の特権を使い、漆黒の巨大建造物の中でひそかに作られていたのは禁断の美の世界だった。  そこは地下の巨大ホールで、何百人もの女性たちが美しい衣装に身を包み、ゆったりと空中を舞っている。百人近い女性たちが何重かの輪になって、それが空中に何層も展開されている。それぞれ煌びやかなドレス、大胆なランジェリー、美しい民族衣装などを身にまとい、ライトアップする魔法のライトと共に、ゆっくりと舞いながら全体が少しずつ回っていた。また、無数の蛍の様な光の微粒子が、舞に合わせてキラキラと光りながらふわふわと飛び回り、幻想的な雰囲気を演出している。  それはまるで王朝絵巻さながらの絢爛豪華な舞踏会だった。  フェロモンを含んだ甘く華やかな香りが漂ってくる。  ほわぁ……。  見ているだけで幻惑され、恍惚(こうこつ)となってしまう。 「な、何ですかコレは……」  国中の美女を少しずつ集めて作り上げていた狂気のアートに、アバドンは呆れ果て、首をかしげる。  ちょうど俺たちの前に、碧眼を煌めかせる美しい女性がゆっくりと近づいてきた。スローモーションのような優雅な動きで、彼女は空中を舞う。二十歳前後だろうか、真紅のドレスを身にまとい、露出の多いハートカットネックの胸元にはつやつやとした弾力のある白い肌が魅惑的な造形を見せている。まるで生きた芸術品のようだった。  彼女はゆっくりと右手を高く掲げながら回っていく――――。  そのすらりとしたスタイルの良い肢体の作る優美な曲線に、俺は思わず息をのんだ。その姿は、まるで神話の妖精を思わせるほどの美しさだった。  彼女に限らず、美女たちが次々と広い空間を埋め尽くすように舞っている。 「いや、ちょっと、何だよこれ……」  俺はその常軌を逸した狂気に圧倒された。  広間の中央には身長二十メートルくらいの巨大な美女がいる。最初はモニュメントか何かだと思っていたが、よく見ると彼女も動いているではないか。彼女も生身の人間かもしれない。  彼女は、この幻想的な空間の中でさえ、異質な威圧感を放っていた。革製の巨大なビキニアーマーを装着してモデルのように体を美しくくねらせている。軽く腹筋が浮いた美しい体の造形には思わずため息が出てしまうほどである。その姿は、美と力の化身とでも言うべきものだった。 「美しい……」  俺は不覚にもヌチ・ギの作り出した美の世界に引き込まれ、慌てて自分の頬をパンパンと張った。  美しいことと、非人道的な犯罪は別の話だ。どんなに美しくても彼女たちが望んでいない以上許されない。  それよりもドロシーだ。俺は銀髪の娘はいないかと一生懸命探してみる。 「ど、どうしましょう……?」  アバドンはあまりの狂気に圧倒され、困惑していた。 「ヌチ・ギの狂気に流されちゃダメだ。ドロシーいないか探してくれ」 「わかりやした!」  二人でしばらく探してみたが、まだ居ないようだった。しかし放っておくとここで展示されてしまうだろう。  ドロシーがこんな所に展示され、永遠にクルクル回り続けるようなことになったら俺は死んでも死にきれない。その想像だけで、胸が締め付けられるような痛みを感じた。 「ドロシー……」  俺はドロシーの柔らかな笑顔を思い出し、ギュッと目をつぶった。  絶対に奪還せねばならない。たとえ命を失うことになろうとも必ず奪還してやると、俺はグッとこぶしを握った。
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