小さな物語

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小さな物語

村から外れた森の中、木々が揺れ木陰がサワサワと音を立てる。 色鮮やかな彩度で生い茂る草木や蝉の鳴き声が暑さを感じさせる。 そんな場所にぽつんと佇むこの古びた木の家が私達の世界。 「ねぇ、お母さん絵本読んでほしいな…」 「任せて!沢山絵本を読んであげる!」 「ありがとう!それとね…?えっと…」 卯月(うづき)は少しだけ俯いてなにか言いたそうにしては止めるを繰り返す。その姿はどこか鏡玉(きょうた)の…彼の父親の姿に似ている。 「?どうしたの?」 そう言って、優しい声で尋ねる。本当は何を伝えたいか痛いほど解ってる。父親が何時帰ってくるのかを聞きたいのだと思う。そして、卯月(うづき)はきっと私を困らせたくないと考えて何も言う事が出来ない事も…私は本当に意地悪だ。 「んーん。なんでもない、今日はこれ読んで欲しいな」 「えっと、虹の絵本ね!」 引っ込み思案で笑顔を忘れた少年が、とても明るい少年と出会い旅に出る。そして出会った友達達と共に苦難を乗り越え大きな虹を一緒に見る。そんなよくある絵本の話。 「…少年は笑顔を取り戻しましたとさ!おしまい!」 「いつか僕もこんな風に誰かと大きな虹見てみたいな…」 「卯月(うづき)…」 ピンクの髪や目をした私と、ベージュの髪、黄緑の目を持つ父親である私達とは違い、卯月(うづき)は白髪赤目。この村では災厄を招くと言われている容姿で産まれた。 …いや、この姿で産まれてくる事を知りながら私達はこの子を産んだ。 父親である鏡玉は能力で未来を遊泳する事ができる。そして、私たちの未来を知る事も、そして、その未来を変える為に今も頑張っている事も… 私は卯月の頭を優しく撫でる。 「卯月、今はお外も限られた場所しか行けないし、お友達と大きな虹も見れないかもしれない。それでもいつかちゃんと見ることが出来るから!」 「うん!その時はお母さんとお父さんとも一緒に見たいな!」 はにかみながら卯月は笑う。 どの世界でも私達の未来はもうそれほど長くない。それは卯月を守る為、この村の忌々しい禁忌を犯し、信仰心の強い村人達に殺される未来しか残されていない。 「うん!その時は一緒に一緒に見ようね!その後、皆で花火も一緒に楽しもっか!」 「そんな友達ができたらいいなぁ…約束だよ?」 そんな約束守れない事も分かってる。それでも卯月を守りたい…例え私達を忘れて、名前さえ彼の記憶から消えても、この子を幸せにしてあげたい。 …そう、それが私達の手を汚してしまう事でも。 そんな決意で私達はこの子を産んだ。 卯月の額にキスをし、抱きしめて精一杯の愛を伝える。 「卯月、愛してる」 「僕もお母さんの事大好きだよ…!」 この子の笑顔は誰よりも優しくて、可愛くて愛おしい。 出来ることなら卯月を手放したくない。本当はこの村を一緒に出て彼の成長を見届けていたいっ…!反抗期や友達が出来て一緒に遊んでいる姿もみたかったし私の創ったこの絵本を、大好きだったんだよと大きくなった時に見せて上げたい…っ!! そんな溢れる気持ちを押し殺しながら今日もまた退屈で幸せな幾許もない時間を卯月と過ごす。 「ただいま…」 「あ、お父さんおかえりなさい!」 久しぶりに帰ってきた父親を卯月は嬉しそうに玄関まで迎えにいく。鏡玉さんもその姿をみてしゃがみ卯月とハグをして撫でたり目いっぱいの愛情を注いでいる。 「んむむっ…お父さんも約束、友達と虹の絵本みたいに大きな虹を作ったら褒めてね。」 「…そうだね、約束…」 「おかえりなさい鏡玉さん」 「ただいま、縁」 鏡玉さんは私と卯月を強く抱きしめ私も返すように2人を優しく抱きしめる。この幸せがずっと続けばいいのに…そう思っているのは鏡玉さんもきっと一緒で「くるしいよお父さん」と言っても卯月の頬をスリスリとしている。 「お父さん嫌い。」 「え…っ」 卯月に無表情でそんな事を言われて、本気でショックを受けているいる鏡玉さんを見て私は笑いが堪えられなくなる。つられたように卯月も笑って鏡玉さんも優しく笑う。 「お父さんごめん。好きだよ、お母さんの次に」 「2番目でも嬉しい…」 私はまた吹き出してしまい鏡玉さんに少し悲しそうに睨まれる。こんな風に過ごしていると、このままずっとこの日常が進んでいく、そんな気もしてくる。 それでも、あっという間に日が暮れる。卯月は遊び疲れて寝てしまい、そしてまた鏡玉さんは私達の為に居なくなってしまう。 幸せそうにすやすやと寝ている卯月を見て頭を撫でているといつも涙が止まらなくなる。 この子は産まれできたことを幸せだと思ってくれているのかな…?私達が居なくなってしまった世界でこの子はどんな事をしながら生きていくのだろう… そんな誰にも言えない気持ちをノートにこっそり書き留めて気持ちと一緒に押し入れのの奥にし舞い込む。 この先の未来が、卯月にとって良い未来である事を願いながら。
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