調査

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調査

ある廃村から少し離れた場所に家らしきものがあると言う。 鬱蒼と生い茂る草木をかき分けながら、渡された地図を元に薄暗い道を進む。こんな場所に家があるのか少しだけ不安になっていると、小屋にも近い家らしきものががぽつんと佇んでいた。 「ここかな…?」 その場所は、かつて母親であった『雪月(ゆづき) (ゆかり)』と父親の『(つくも) 鏡玉(きょうた)』が俺と一緒に暮らしていた場所らしい。 とは言っても、この場所の事はおろか物心付いた頃からずっと『叶雪(かのせ) (るな)』として生きてきた事もあり、俺には『(つくも) 卯月(うづき)』だった記憶は全く無い。 この場所に来たのも、学園長であり今の父さんである神琴(みこと)さんに言われ『調査』という名目で来ただけなのだ。 資料に目を通すと、彼等はこの村に伝わっていた白髪赤目の『災厄の子』である俺が産まれた事を隠し育てた事で、村全体の見せしめの様な酷い処刑をされ命を落としたらしい。 その際、俺は何故か村の誰も手をかけることが出来なかった為、疎まれ村から追放されたと言うのが記述として残っていたらしい。 『災厄の子』と言うのは俺にも記憶があった。この村の下の方に住んでいた時に何度もそれで疎まれたり、見ず知らずの人間に「化け物!」石を投げられたりする事もあったけど流石に周囲まで処刑される程酷い仕打ちをしていたこの村に嫌悪感を覚えると同時に、そんな息子を産んでしまった彼等はどう思っていたのだろうか?と考えてしまう。 「…」 俺は彼等を知らない間に殺している訳で、両親に、もし普通の子が産れていたのならきっと平凡に幸せに暮らしていたのだ。そう考えると、俺は産まれるべきではなかった。それでも今の俺は幸せで…両親は死んだ今でも俺を憎んでいたのではないだろうか…そして、もし家の中に俺への恨みツラミが残されていたら… そんな暗い感情ばかりが埋めつくし、小屋に入る手がどうしても止めてしまう。寒くもないのに震える手を胸に抱きしめ、大切な人達の事を思い浮かべ落ち着かせる。彼等の事を思い浮かべていると、徐々に安心感にも似た感情が心を埋め尽くす。 「…大丈夫、もう一人じゃない。」 手の震えは止まり、錆びたドアノブに手をかけ押してみるとギギギ…と音を立て扉が開く。扉の隙間から見える部屋はこじんまりとしているものの荒らされた形跡も無くホコリはつのっているものの、誰かが定期的に掃除をしているのでは無いかと疑ってしまう雰囲気で、綺麗に形を保っている。そうなってくると、廃屋だと分かっているのに逆に入りづらい… 「お邪魔します…」 俺は、恐る恐る室内に入り周囲を見渡す。ぱっと目の着く中央のテーブルには2人分の手紙と絵本が置かれていた。手紙の方はきっと、俺宛て…『卯月』に宛てた物だろう。開こうとするが、紙がくっついていて今見る事は難しそうだ…内心安堵しながら、もう1つの絵本を手にとる。 「…虹の絵本…?」 パラパラと本を開くと1枚1枚ちゃんとめくれて読む事が出来る。この本に該当するものを検索してみても該当はなく、恐らく母親であった『雪月(ゆづき)(ゆかり)』が作った絵本なのではないかと仮説を立てる。 だとしても、こんなしっかりとした本を何の為に…きっと子供の頃の俺の為だと言う事は理解ができる。だとしても『災厄の子』である俺の為にわざわざ作った…?いや、産まれてくる前に作ったのかもしれない。色々な憶測をしながら、虹の絵本を読んでみる。 本の内容は、引っ込み思案の少年が、とある少年と出会い旅に出て、仲間と大きな虹を一緒に見ると言った内容で、最後のページをめくるとお母さんらしき人の文字で 『約束!見届けたよ!』 と書かれている。 これはよくあるおとぎ話だ。何処にでもある様な話のはずなのに、俺はこの本の主人公の様に、ある少年と出会い仲間が出来て…そして色々な困難を乗り越え大きな虹も見たのだ。 普通ならこんな未来予言の様なこんな物があるのは怖いし、最後の言葉は本当に意味が分からない。 …それなのに不思議と捨てようという気は起きないし、何故か胸の底がじわじわと暖かくなるような感覚になっていく。 そして、記憶を遡ると1つだけ気になっていたことを思い出す。 「あの日、聴こえた2つの声…もしかして…」
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