冥府に惑う者

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「まあ、何というか……迎えに来てくれたことは嬉しかったよ」  再び、玉座前の階段に2人で腰を下ろした。横並びになって2人して気まずく押し黙る中、先に口火を切ったのはエイの方だった。 「『迎えに行く』っていう言葉は、少なくともウソじゃなかったし」  カルは膝に顔を埋めたまま「……当たり前だろ」と呟いた。エイは小さく頷き、先を続ける。 「でもさ……それとと同じかそれ以上に、私もこれまで頑張ったんだよ。望んで来たわけじゃないこの冥府を、何とかいい場所にしようと思って。そこだけは、わかって欲しかった」  今度はカルが小さく頷く。 「そうだよね、ごめん。本当にすごいよ。自分のことばかりになって、そこに目が向かなかった」  カルの答えを聞きながら、エイはしばらく両手で顔を覆っていた。やがて、覚悟を決めたかのようにその手を外す。 「それでさ、本当に申し訳ないんだけど……私に冥府を離れるつもりはない。仕事にやりがいはあるし、こっちでたくさん仲間もできた。今の私、本当に楽しいんだ」 「うん……それはわかるよ。これまで見たことないくらい、生き生きしてるみたいだから」  一度、互いに胸の内をぶち撒けたおかげだろうか。その事実を認めることは、もうそこまで辛くなかった。 「別にカルのことが嫌いになったとか、そういうことじゃないんだよ! 現世で一緒に暮らしている時間も、決して悪いものじゃなかった」  それもわかる。ただ、カルの存在がエイにとって一番ではなくなっただけなのだ。  感慨に浸るカルを尻目に、エイは「そうだ!」と手を打った。 「もしよかったら、冥府に移住してみない? それなら、また一緒にいられる。そのあたりの手続きも簡略化したから、数枚の書類を書くだけで大丈夫なはず」  いそいそと書類を取り出すエイを、カルはぼんやり眺める。答えは自然に出てきた。深く考える必要は、あまりなかった。 「冥府に移住するってことは……死ぬってことだよね?」 「まあ、一応は」 「それは、やめておこうかな。今すぐ死ぬ気分には、ちょっと……なれない」  考えてみれば不思議な結論だ。ここに忍び込む前は、命を捨てても惜しくないと思っていたはずなのに。だが……どれだけ不思議でも、今のカルが出した正直な結論だった。
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