113人が本棚に入れています
本棚に追加
がばりと身を起こして、布団から這い上がる。なぜ自分がベッドで寝ているのか。
そんな疑問に気づいて、志弦の意識は急速に覚醒した。まさか、本当に寝てしまうなんて。志弦は目を見開いた。怜治に引きずり込まれたものの、彼の寝た気配がしたら自室に戻ろうと思っていたのに。
そうだ、怜治様は。と、がばりと横を見るとしかし、既にも抜けの殻だった。目を向ければ時計の短針は真下、6時ごろをさしている。志弦は急いで布団を剥いだ。
休んだのが功を奏したのか、体はすこぶる軽い。ひとまず顔を洗うと、すでにキッチンの方から、何かの物音がした。そっと、リビングの扉を開ける。
「おはようございます、怜治様」
「おはよう。体調はどうだ?」
怜治が、コンロの前でおたまを握っていた。昨日から驚いてばかりだ。と志弦は思った。
そもそも、主でさえ感じ取った微熱を、自分でも気づいていなかったのが、志弦にとって予想外の出来事なのだ。
「体が軽いです…ご迷惑をおかけ致しました」
「昨日も言っただろ、部下の管理は主人の役割だ」
気にするな、と怜治が言った。普段よりも表情がふっと柔らかくなる。綺麗な顔をしているな、と志弦は目を奪われた。朝も早いというのに、今日も完璧である。常のキリッとした目尻も、もちろん格好良いが、それが緩んで、すっと下がるのを見ると、やはり怜治の側にいる特権だなぁ、なんて志弦は思うのだ。
じっと見つめている志弦に、怜治が気づく。自分の手元を広げ、キッチンを志弦へと見せた。
「あぁ、おかゆを作っている」
「あ…お手伝い致します!」
「俺も簡単な料理くらいできる。お前には敵わんがな」
「〜〜〜っ、ありがとうございます!」
朝から褒め殺す気だろうか、この主。思わず左手で口を覆った志弦は、その後、弾かれるようにテーブルの準備に動き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!