EP 1 風紀副委員長

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 どれだけやっても、仕事が終わらない。  私立白樺(しらかば)学園、風紀委員室。副委員長を務めている立影志弦(しづる)は、視界に入る大量の書類を見て、思わず手を止めた。  気がつけば、先程まで眩しかったはずの夕日は、既に沈んでおり、窓の外は暗くなっている。それだけ志弦は仕事に長い間集中していたらしい。 「もうこんな時間か…」  自然と溜め息が出てくるのは、時間の経過自体に嫌気が差した訳ではない。それだけの時間を仕事に費やしていたにも関わらず、書類の山にほとんど変化が見られない、という驚愕の事実のせいだ。 (4月は新入生が慣れてないからな)  全寮制男子高校である私立白樺学園は初等部、中等部、高等部からなる一貫校であるが、やはりその区切りで大きく雰囲気が変わる。  特に、高校生になったばかりの彼らが羽目を外しがちになるのが、恋愛関係。山奥に隔離された全寮制の男どもは、大抵がその学校生活の中で恋愛対象に男を含め始める。それに肉体的なものが絡んでくるのが、高校だ。  高校生らしく真っ当な恋愛をしておいてくれるのならばそれで良い。しかし、慣れない新入生が羽目を外したり、はたまた上級生がそんな子羊を喰らったりする場合もあった。  風紀委員会は、それを含む生徒間の諍いを仲裁する役目を持つ。春はまさに繁忙期。副委員長である志弦は、現場にはあまり出ず、新入生に関係する書類を裁くことを任されていた。 (あの脳筋ども、体よく仕事を押し付けやがって…)  おかげでいま風紀室にいるのは志弦と、もう1人の風紀委員のみである。ただ黙々と仕事をこなしていたのだ。 (実際、生徒会一人よりも俺の方がこなしてるんじゃないか?)  委員になってから生まれた仮説がいよいよ最近、真実味を帯びてきた。  そもそも風紀委員会は、校内の揉め事の予防・解決を行う生徒主体の組織。決して書類の確認などする組織ではない。  こうして書類仕事をこなすようになったのは、何十年も前の世代で生徒会が問題を起こしてからだ。そこから徐々に抑止力と位置づけられ、段々と様変わり。生徒会に次ぐ第二勢力へ変貌すると共に、管轄する範囲が徐々に増えたため、今のように仕事が膨大になったらしい。  まったくもって教師の怠慢だ、嘆かわしい。そう言って俺に伝えたのは1つ上の先輩だった。  あれは、そう。丁度季節柄忙しい時期に生徒会の仕事が滞り、委員の半数以上が風紀室に拘束されたときだった。  志弦は遠い目をした。膨大な仕事を処理して、彼の目が死んでいるときに、恨みがこもったように言われたのだ。ちなみに先輩もその先輩から言われたらしい。…俺も、今度誰かに教えようかな。  閑話休題。  とにかく。仕事が終わらない。やれどもやれども終わらない。まさか副委員長の仕事がこれほどに多いとは思わなかった。  志弦は、前任の委員長たちの仕事ぶりを思い返す。しかし、浮かんできたのはどこか余裕のある笑みで委員を励ましている姿だけで、頭を抱えたくなった。  いや、どうなってるんだ、あの人たち。同じ位置に立てて初めて分かるとはよく言ったものだ。こうして、先輩方の有能さを突きつけられる。いや、まぁ分かっていたことだけれども。  後悔先に立たずとは良く言ったもので、何故12月に安請負いしてしまったんだろうと、(いや、十分に悩んだが)考えたくもなる。というより、ふとしたときに考えてしまうのだ。こうした書類仕事が大切なのは身に染みているのだが。    
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