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2 復讐はデザートと共に
ダイニングテーブルには、妻が腕によりをかけた料理が並び、夫が選んできた白ワインが、料理に華を添える。
二人で過ごす、さりげない、幸せな時間。
そう。表面上は。
あの日、あの時。
私の心に芽吹いてしまった「もの」は、根を張り、成長し…ここまで育ってしまった。
この計画を、実行しようとするほどに…。
良い妻の仮面も、この手の込んだ料理も全て、私にとって前菜に過ぎない。
長い時間をかけたこの計画の山場…メインディッシュはデザートなんだから。
「君の料理は本当に美味いよ。ついつい、食べ過ぎちゃうな」
夫はそう言いながら、膨らんだお腹をさする。
(頃合いかしら…)
心の中とは裏腹に、完璧な笑顔で微笑む。
「じゃあ、デザートにしましょうか。プリンを作ってあるの」
「お。プリンか。いいね!」
「用意してくるわね」
私は席立ってキッチンに向かい、冷蔵庫からプリンの型を取り出し、型から外す。
上手く外れなかったら台無しになるところだったが、幸い上手くいった。
ふるん…っと、プリンがガラスの器の上で踊る。
こらえきれない笑みも、私の口端に踊る…。
生クリームと、あらかじめカットしておいたフルーツを盛り付ける。
(完璧だわ)
優雅な仕草と微笑みと一緒に、プリンを夫の前に、ことりと置く。
つやりと輝くカラメルソースが、なめらかな表面を流れ落ち、添えられた生クリームとフルーツが彩りを添える。
「まるで、店で出てくるプリンだね。美味そうだ…あれ?君のものと色が違うね?」
「ええ。あなたのプリンは特別なの」
「へぇ。楽しみだ」
夫は、スプーンを手に取り、プリンをすくう。
私の、待ちに待った瞬間だ。
そして口に、プリンが入った、その時。
夫は、カッと大きく目を見開き、開いた口は震え…。
右手で胸元を握りしめ、左手はテーブルを掻きむしった。
私の笑みが、深まる。
夫が充血した目で、私を見た。
「かっ………」
なんとか絞り出した言葉を発した夫。
その耳元に、唇を寄せる。
「なぁに?」
「か……!!」
「どう?特別なプリンのお味は…?」
夫は大きく息を吸い込み、そして……
「辛っ!!」
そう叫んだ。
ええ。そうでしょうね。
あなたが食べたプリンには、辛いことで有名なハバネロ。それよりも更に辛いと言われている、ブート・ジョロキアのエキスがたっぷりと入っているんだから。
「うわ!めちゃくちゃ辛い!!辛いって言うか、痛いっ!何だこれ!!」
あまりの辛さに悶える夫。
それを焦りもせず、優雅に微笑みながら眺めている私。
「こ、これ、どういうこと!!」
「食べて」
「え…?」
「せっかく作ったのよ?だから、全部、食べて」
極上の笑顔を浮かべつつ話す私に、夫は何か気づいたように顔が引きつる。
「え…もしかして、何か怒ってる…?」
やっと気がついた?
そう。私は怒っているの。
それはもう、ものすごく。
理由は、あなたが特別なプリンをちゃんと全部食べたら、その時に教えてあげる。
その日の晩、うちのリビングには、夫の辛さに悶える声が響き渡ったのだった…。
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