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1ー6 新作
俺がばあ様から受けた命令について相談するためにジーナス公爵の屋敷を訪ねたとき、ラミリアは、自分の部屋で執筆中だった。
昔から俺たちは、お互いの部屋を訪れる間柄だったので使用人たちは、俺をすぐにラミリアの部屋へと通してくれた。
ラミリアは、淀んだ目で原稿と向かい合っていたが、快く俺を迎えてくれた。
「ちょうどいいところに来てくださったわね、ライナス」
俺をライナスと呼ぶのは、ばあ様たちの他には、ラミリアしかいない。
俺は、進められる前に部屋の片隅に置かれたソファに腰を下ろして足を組んだ。
「奇遇だな。俺も君に相談したいことがあったんだ」
「まあ、あなたが私に?いったいどんなことかしら」
彼女は、淑女の微笑みを浮かべると俺の座っているソファの前に置かれた椅子に腰を下ろして前のめりになった。
俺は、ばあ様の命令を話した。
ラミリアは、俺の話を黙って聞いていたがやがて、ぽつりと呟いた。
「それは・・面白いかも」
彼女は、すっくと立ち上がると俺に背を向け机に向かいすごい勢いで何かを書き始めた。
彼女が筆を置いたのは夕暮れのことだった。
俺は、彼女の部屋に置いている作りかけのぬいぐるみを製作するのに夢中で時間がすぎるのに気づかなかった。
辺りが暗くなる頃に、彼女の家のメイドがそっと部屋に入ってきて明かりを灯した。
はっと顔をあげて俺は、出来上がったぬいぐるみをソファに置くと立ち上がった。
「もう、寮に戻らなくては」
「あら、もう少しだけいいでしょう?ライナス」
ラミリアが書類の束を持って俺の報へと迫ってくる。
「たった今書き上がった新作に目を通していただけるかしら?」
「はぁ・・」
俺は、仕方なく腰を下ろすと彼女の新作を受けとった。
それは、手芸が趣味の騎士が王子様と出会って恋に落ちる物語だった。
うん。
それは、いいんだ。
実は、俺は、恋愛小説は、嫌いじゃないし。
ただ、その、恋の表現が直情的というか、なんというか。
俺は、結局、その日、夜遅くまで『ラムナ・リグニアス』の新作を堪能することになったのだった。
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