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1 婚活始めました!
1ー1 結婚ですか?
それは、思いもしない祖母の一言から始まった。
「リチャード・ライナス、あなた、結婚なさいな」
祖母の危篤の報をきき久しぶりに故郷であるトマソンズ男爵領にある屋敷に戻った俺に祖母は、唐突にそう命じた。
というか、あなた、生きてますよね?
俺は、そう言いかけて言葉を飲んだ。
そんなことはもはやなんの問題でもないのだ。
今、問題とされていることは、俺の結婚だった。
俺は、27歳になるが、この歳になるまで自慢じゃないが女っ気の欠片もなかった。
というのも俺には、俺の存在が必要ないぐらいに完璧なイケメンでしかも先の隣国との戦争において武功をあげて子爵になった長兄と王宮の花と言われるほどの美形で仕事もでき、30歳の若さで宰相殿の懐刀とまで言われている次兄がいる。
そのため、3男である俺は、まったく注目されることがなかったのだ。
それも仕方がない。
イケメンの兄たちと比べると俺は、普通。
外見も、知能も、全てが並み。
いわば、モブ中のモブ。
それが俺、リチャード・ライナス・トマソンズだった。
妾腹の俺は、迫害こそされなかったものの幼い頃に母が病気で亡くなってからは、男爵家においていらない子とされていた。
そこにいてもいない子供。
まあ、軽い育児放棄だった。
食事も与えられたし、生活にも困らなかった。
でも、誰も俺には、声もかけなかったし世話を焼こうともしなかった。
そんな状況でも無事に成長できたのは、祖母であるマリアンヌ・エマ・トマソンズのおかげだった。
彼女が幼い俺を見つけてくれたんだ。
あの日、彼女は、俺を見て眉をひそめた。
「なんて汚ならしい子供なの」
彼女は、俺をトマソンズ男爵領にある自分の屋敷、別名薔薇屋敷へと連れ帰ると自ら風呂に入れて、俺がもっとも必要としていたものを与えてくれた。
それは、俺を見てくれる目。
触れてくれる手。
それから俺は、祖母の手で愛情を注がれて生きてきた。
祖母のおかげで俺は、兄たちと同じように貴族の学ぶ王立学園にも入学できたし、騎士団にも入団することができた。
俺には、兄たちのような勇ましさも知性もなかったが、弓術だけは、そこそこのものだった。
祖母は、俺のために弓術の師匠を呼び寄せてくれ、俺の能力を伸ばしてくれた。
おかげで王都の第3騎士団に入団することができたんだ。
なのに、俺は、王立学園を卒業するとともに騎士団に入団すると仕事にかまけて領地には、近づこうとはしなかった。
そんなときに不意に祖母の危篤の知らせが届いたのだ。
俺は、慌てて休暇をとり男爵領へと戻った。
で。
今にいたる。
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