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1ー2 女神の祝福
俺が祖母の屋敷に駆け込むと祖母は、危篤どころか優雅に薔薇の花びらを浮かべた紅茶を味わっていた。
いつもと変わらないその美しい姿に俺がほっと胸を撫で下ろしつつも戸惑いを隠せずにいるのを見て祖母は、優美な笑みを口許に浮かべた。
「私、そろそろひ孫が見たくなりました」
はい?
俺は、信じられずにぽっかーんとしていた。
ひまご?
何それ?
うまいの?
祖母は、立ち尽くしている俺に椅子をすすめ、祖母付きのメイドがお茶の入ったカップを置く。
「あなたの兄たちは、ほんとに唐変木ばかり。待ってても、ひ孫なんて見せてはくれそうにないわ」
俺は、落ち着くためにもいい香りがするお茶を一口飲んだ。祖母は、ふぅっとため息をつく。
「このままだと私は、永遠にひ孫を見ることなくあの世へいくことになりそう。そこで、リチャード・ライナス。あなたを呼び戻すことにしたの」
祖母は、ふふっと可愛らしく恥じらうように目を伏せた。
「あなたは、女の子に免疫はないけれど、騎士団員ですもの。きっと、その気になれば嫁の一人や二人、すぐに見つけられるでしょう?」
いや。
俺は、口をはくはくとしていた。
今まで女が近寄らなかった者が急に嫁を手に入れることなんて無理ですよ?
騎士団員だから、って、ばあ様、いったい騎士団員をなんだと思っている?
そりゃ、先輩たちの中には女をとっかえひっかえしてる人もいるが、俺には、無理!
もともとが王立学園でも男ばかりの騎士科出身だし!
ほぼほぼ男子校だし!
しかも。
俺には、ばあ様にも知らせてない秘密があった。
それは。
俺には、前世の記憶があるということ。
しかも、俺の前世は、まったく今以上に女っ気がなかった。
中学高校と男子校。
そして、高校卒業の春に俺は、事故で死んだ。
そう。
俺は、生涯DTだった。
それは、この現世でも同じだった。
というのも俺には、女神の祝福が与えられていたから。
女神の祝福。
それは、いわゆる特殊な能力のことだ。
あるものは、怪我や病気を癒す力を持ち、また、あるものは、とんでもない怪力を与えられたりしていた。
俺に与えられたのは、もっとイヤな力だった。
俺に与えられた女神の祝福は、他人の心が読める力だった。
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