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1ー3 悪魔の微笑み
この女神の祝福について知っているのは、祖母とその執事とメイドの他にはいない。
こんな力を持っていることが知れたら俺が不幸になるという祖母の判断で死んだ父や兄たちにも知らされてはいない。
だが、この力のせいで俺は、女という生き物とお近づきになることができなかった。
それは、俺に近づいてくる女たちのほとんどが俺ではなく俺の兄たちが目的だったからだ。
俺のことをほんとに愛してくれているのは、ばあ様と執事のイワンとメイドのフランだけだ。
兄たちは。
俺のことをなんとも思っていないらしい。
普通、近づくと何らかの波動が伝わってくるのだが、兄たちからは、何も感じられなかった。
おそらくは、彼らは、俺のことをまったく気にかけていないのだろう。
と、自分の世界に入っていた俺にばあ様が細くて白い指先を突きつけた。
「いいかしら?リチャード・ライナス。あなたには、1年以内に伴侶を見つけて子供を作っていただくわ。もし、それができないというのなら」
ばあ様は、にやっと意地悪く笑った。
「あなたにこのトマソンズ男爵家の当主になってもらいますからね!」
はいぃっ?
俺は、突然のばあ様の宣言に驚き思わずお茶のカップを取り落としてしまった。
がしゃん、と音をたててカップが砕ける。
すぐにメイドが片付けに飛んできた。
俺は、ばあ様に信じられないものを見るような目を向けた。
「それは・・次兄のクリストファー兄上が継がれる筈なのでは?」
「誰が、そんなことを決めたのかしら?」
ばあ様は、いたづらっ子みたいな視線を俺に向けた。
「あなたたちのお父様・・私の息子が20年前に亡くなって以来、男爵の称号は、私が仮に預かることになりました。つまり、次期男爵は、私の胸の内一つにかかっているということです」
ばあ様は、悪魔もかくやというような淑女の笑みを浮かべると俺に告げた。
「男爵位を継ぎたくなければ、どうにかして伴侶を見つけなさいな、リチャード・ライナス。さもなくば」
ばあ様が俺に宣言した。
「あなたが次の男爵になることになります」
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