別れ

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別れ

『別れよう』 花火を背景にして、彼女に言われる。 いきなりのことで、全く理解が追いつかなかった。 「え、なんで」 困惑を抱えながら彼女に聞き返す。 『冷めちゃった』 てへっとした笑顔で返される。 絶望と()う感情が脳内で輪廻する。 おれたちの関係はそんなあっさり終わっていいものでは無い。 この五年間、なんだったんだよ。 おれはまだ、彼女のことが好きだ。 「まだ別れなくない」 目に涙を貯め、正直に言葉を紡いだ。 『もう、終わっちゃったんだよ。私達は別れるしかないんだよ』 背景の花火が、彼女を尊く、儚く、美しく描写していた。 嗚咽を叫びそうになったが、辺りに大勢の人が居るので、それを必死に抑える。 それでも、瞳から涙は止まらなかった。 彼女がこの場から立ち去ろうとした。 おれは彼女の腕を強く掴む。 「行かないで」 泣き声でそう願う。 『痛いなぁ。私は行くよ』 彼女は、おれの手を払うことは無かった。 ただ、必死におれを見つめてくる。 あぁ、本当にずるいな。 最後に見た彼女はやはりいつも通り可愛く愛おしかった。 おれは、彼女の腕を離す。 『ありがと』 彼女もなんだか悲しそうに微笑んだ。 おれは、声を押え泣いていた。 『さようなら、今までの日々、幸せだった』 彼女のその一言で、涙が1層激しくなった。 本当別れなんだなと酷く痛感する。 「ばいばい、おれも凄く幸せだったよ」 おれがそう言うと、彼女はまたしてもニコッと笑い、人混みに消えてしまった。 おれも直ぐにその場から逃げだし、人が全く居ない路地裏あたりまで駆けた。 花火なんかどうでもよかった。 そこでおれは、声を上げて泣いた。 喉がはち切れるほど泣いた。 喉の激痛など気にしている場合ではなかった。 おれは彼女と本気で結婚して幸せな家庭を築き上げれると信じていた。 花火の音とおれの号哭(ごうこく)が、辺りのビルに響く。
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