帰還した塩対応の婚約者が、激甘になって戻ってきた件

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 *  翌日の午後、謎は全て解けた。  レナードとその妹フィオナが、リリィシュの家を突然訪問してきたのだ。  前日のレナードの意味不明過ぎる溺愛ぶりに困惑した結果、リリィシュは寝不足気味だった。だから気分を落ち着けようと、モリーナに入れてもらったハーブティーを庭園で飲んでいた。そんな所へ突然2人が現れたものだから、リリィシュはたちまち石像のように固まった。  「レ、レナード様……それにフィオナ様まで。今日はまたいかがなさいましたか?」  リリィシュが尋ねると、レナードがフィオナに何か言うように促すのが見てとれた。そのレナードの表情は妹を諭すかのような表情を浮かべ、対するフィオナはと言うと思いつめた表情をしていた。  「リリィシュ様……私はあなたに謝らなければならないことがあります」  「謝らなければならない、こと?」  「リリー。妹は君に対しても俺に対しても過ちを犯した。兄として、また君の婚約者としてこの件を見過ごすことは出来ない。すまないが聞いてやってもらえないだろうか」  レナードがそう言ってフィオナの肩に手を置いた途端、せきをきったようにフィオナが顔を覆って泣き始め、リリィシュは驚いた。  すると、傍で控えていたモリーナが静々と歩み寄り口を開いた。  「恐れながら……殿下。話はもしかして、昨日私に聞いてきたことと関係がございますか?」  モリーナの問いかけに、レナードが頷く。  「あぁそうだ。念の為君にリリーのこれまでのことを色々詳細に聞いて確認しておいて良かった。そうでなければ俺はずっと行き違いに気づかず、リリーに誤解されたままだったかもしれないのだからな。お陰でフィオナを問い質し真実に辿り着くことが出来た。モリーナ、ありがとう」  「とんでもございません。御二人のお役に立てて光栄に存じます、殿下」  「…………誤解?」  モリーナとレナードの言葉を聞いてリリィシュが不思議に思っていると、しゃくりあげながらフィオナが話し始めた。  「リリィシュ様……本当にごめんなさい。私、お兄様のことが本当に幼い頃から大好きで……リリィシュ様に大好きなお兄様を奪われたと思って激しく嫉妬してしまって…………初めてお茶会に誘ったあの日、お兄様の紅茶に不真実草でできた魔法薬を入れてしまったの」  「不真実草で出来た魔法薬?どうしてそのようなものを?」  リリィシュは、不真実草という言葉に聞き覚えがあった。  確かその草は、他国の条件が整った場所でしか生えないとされる秘草だ。その秘草の存在はあまり知られていない。名前の通りその草を煎じて作った魔法薬を飲めば、その量に応じた時間、心とは裏腹な人格となり裏腹なことを喋り始めてしまうのだと、薬草に詳しかった亡き曾祖母から聞いたことがあった。  そして、その薬草の効果は一過性のものであり、効き目が切れると共に、薬草の効果が出ていた時の当人の記憶は綺麗さっぱり消えるのだとも。  「ほんの軽い出来心だったの。庭園を散歩している間に、お兄様とリリィシュ様が喧嘩して仲が悪くなってしまえばいいって。お兄様が不真実草の魔法薬を口にすればリリィシュ様に自分の想いとは裏腹な言葉を言うって……お兄様はリリィシュ様との婚約が決まった後、家でとても幸せそうに浮かれていたわ。だって昔からリリィシュ様にご執心だったんですもの。私はお兄様にはいつまでも私だけの凛々しいお兄様でいてほしかったのに……そう思ったらリリィシュ様のことがどうしても許せなくって……お兄様にキツく言われて傷つけばいいと思って……」  泣きながら事の次第を話したフィオナの言葉を聞いて、リリィシュは混乱した。  「ちょ、ちょっと待って下さる?それでは、あのお茶会の時のレナード様の態度というのは……」  一旦頭の中でフィオナの言葉を整理するリリィシュだったものの。  フィオナが言ったことが本当だとするなら、魔法薬のせいで、レナードは操られて心にもない裏腹なことを私に言った?  ということは、わたしと結婚をしたくないではなく、結婚を望んでいたということになるのでは?  ようやく真実に辿り着いてしまったリリィシュは顔が火照り、思わず両手で頰をおさえた。  それに、昔からご執心だったって。わたし、レナード様に初めて会ったのはあの日のお茶会ではなかったってこと?  一体、いつ最初に出会ったの?  リリィシュがレナードを見ると、レナードは座っているリリィシュの前に(ひさまず)いた。その後ろに立ち、フィオナも深々と頭を下げた。  「リリー……モリーナから昨日全てあの日のことを聞いた。いくら妹がしでかしたこととは言え、俺は自分の知らぬ間に君のことを大いに傷つけてしまった。嫌な想いをさせてしまって本当にすまなかった」  「レナード様。どうかお顔をお上げ下さい。わたしなら大丈夫です……それにもう過ぎたことですから」  「リリィシュ様、本当にごめんなさい……」  「フィオナ様。2度とこのようなことはしないとお誓い下さい。お誓い頂けるのであればお許ししますわ」  「誓います。もう2度とあんなことはいたしません」  リリィシュが後ろを振り返ると、傍にいたモリーナがにっこりと微笑む姿が見え、リリィシュは苦笑混じりに微笑んだ。  こうして、リリィシュとレナードの誤解は解けたのだった。  ――さて、この後わたしはどうなるでしょうか?  
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