帰還した塩対応の婚約者が、激甘になって戻ってきた件

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 *  それから1週間後。レナードの公務が一段落し、リリィシュはレナードに誘われて出かけることになった。  行き先は2人にゆかりのある場所だとレナードは微笑むが、リリィシュには全く覚えがなかった。  そこに行けばフィオナ様の言葉の意味が分かるのかしらと考えていると、レナードの乗った馬車が現れた。  「やぁ、僕の子猫ちゃん!今日の淡い水色のコートも君の純白の肌に映えてとっても似合ってる。素敵だよ、愛しいリリー」  「あ、ありがとうございます……レナード様」  レナードのこうした熱視線気味な対応に慣れないリリィシュは、恥ずかしさのあまり俯いた。その俯いてはにかむリリィシュの姿を見て可愛いと更にベタ褒めするレナードに、モリーナがさっさと行って下さいと淡々と告げた。  リリィシュには他にも気がかりな点があったのだが、それも解決済みだ。  それはレナードの言葉遣いだ。  自らを僕と呼び、軽い感じで喋る方が素の彼らしい。不真実草の副作用かと心配したものの、そうではなかった。  見た目と喋った時のギャップが騎士達を統率する身としてあまりにも相応しくない――国王からそんな指摘が入り、もっと威厳を保つよう言われたという。  だから、騎士達や他の貴族令嬢達の前などではクールを装っていたという話だ。  ――幻滅しちゃった?  謝罪が済んで2人きりにると、レナードは心配そうに尋ねた。  ――僕の様子に驚いてたもんね。……でもこっちが本当の僕なんだ。  見た目は凛々しいレナードがしょんぼりする姿に、リリィシュはつい可愛いと思ってしまった。  流石の王命とあれば仕方ないわよね。  ――レナード様はレナード様ですから。最初は確かに驚きましたけど、冷たかった時のレナード様より全然良いと思います。  隠された秘密をレナードから聞かされたリリィシュは、親しみがわいて笑みをこぼした。  冬にしては太陽が顔を出す麗らかな昼下がり。  場所は城からもリリィシュの住む家からもすぐ近くの草原の大きな木の下に2人の姿があった。そこは、リリィシュが幼い時からいつもお忍びで本を読みに来るお気に入りの場所だった。  その木に背中を預け胡座をかくレナードの膝に、リリィシュは座らされていた。リリィシュが逃げ出さないようにとばかりに、レナードはその腕をしっかりとリリィシュのお腹に絡ませていた。  「レナード様……近すぎませんか、わたし達」  「何で?結婚したらきっといつもこんな感じだよ、僕達。それに寒いからくっついてた方があったかいじゃない?」  「……レナード様、どうしてわたしなのですか?レナード様でしたら、他にもっと素敵なお相手がいらっしゃるのではないかと思うのですが。私は本の虫の地味な令嬢です。レナード様が仰って下さるようなそんな人間では」  「なんて奥ゆかしいんだ。僕はリリーのそんな節度ある雰囲気も好きだよ」  見上げたリリィシュの冷たい頰をレナードの手が包む。恋愛未経験のリリィシュは、手の感触だけで赤面して狼狽えた。この間の額へのキスと同じくらい変な声も出た。  「レナード様……わたしは遠い昔に、あなたと出会っているのですか?」  「どうしてそんな可愛いことを聞くんだい、リリー?君と僕とが前世からの恋人だったとでも言いたいのかい?だったらそうかもしれないね。だって、僕はいつ君のことを見ても胸の鼓動がこんなにも高鳴ってしまう。どうしようもないくらい、君の全てが欲しいと思ってしまうんだ」  そんな甘すぎることを潤んだ瞳で見つめて言わないで下さい。こっちの心臓がもちません。  「ほら」  心臓が爆発寸前のリリィシュの手をレナードが手をとり、自分の心臓の部分にその手をあてる。  「……僕の完全なる一目惚れなんだ。10歳の時、今日みたいな冬の日に僕はここで本を読んでいる君を見かけた。木漏れ日が射すこの場所で本を読む君の姿は神々しいくらい眩しくて。まるで伝説の聖女様そのものだった。理屈じゃないんだ。僕はあっという間に恋に落ちた……君に。すぐにでも声をかけたかったけど、その後君が兄上の婚約者候補に選ばれていると知ってね。君を遠くで見ているだけしか出来なかった。兄上が他の令嬢と結婚することになると知り、君の家から釣書が送られてきた時は天にも上る心地だった」  「そう、だったのですね……」  まさか、幼い時から自分の存在に気づいて見てくれている人がいるなんて気づかなかった。  本を読むことしか取り柄がない自分のことだけを、ずっと想ってくれていたなんて……  「僕のこの命は君の為にある。君が1番好きだというこの場所に誓って、君のことを大切にすると誓うよ」  「どうしてこの場所がわたしが1番好きな場所だと知っているのですか?」  「モリーナだよ」  「モリーナったら……すぐにレナード様に教えちゃうんだから」  照れ気味にふくれるリリィシュを見てよほどたまらなくなったのか、レナードがリリィシュの体を抱きしめる。  「……実はわたしも謝らなければならないことがあります……レナード様がご帰還された時、あの時は心からおかえりなさいって言えなかったのです」  「僕の愛しの子猫ちゃん……だったら、僕が今ただいまと言えば、君は心から僕のことを出迎えてくれるかい?」  「……えぇ」  「僕は果報者だ。……リリー、ただいま」  「おかえりなさい……おかりなさい、レナード様」  「あぁ……愛してるリリィシュ。僕の妻になって」  「……はい」  レナードに囁かれて耳も心もくすぐったく感じながら、リリィシュはゆっくりと頷いた。  甘過ぎるキスを長く交わした後、レナードはこの後すぐに結婚式をしようと言った。しかし、キスで危うく酸欠になりかけたリリィシュは、今日は流石に駄目ですと、レナードの胸にポスンと顔を埋めた。  こうして、レナードとリリィシュの結婚は3日後に無事執り行われた。        ――END――  
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