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ざわざわと聞こえる喧騒の中、来夢は座布団の上にちょこんと座って大人しくしていた。
目の前には視界いっぱいに咲き誇る菊の花。その中央でほほ笑む祖母の写真。肌に染み付くような線香の香り。祖母の死を嘆く者たちの啜り泣く声。
そのどれもが遠く、現実味がない。
ひどい耳鳴りを感じながらぼんやりしていると、父に肩を抱かれて、そこでやっと自分が泣いている事に気が付いた。
山で首を括った祖母を見つけたのは来夢だった。
すぐに大人を呼んで来たが、時すでに遅く、祖母は搬送先の病院で息を引き取った。異様な死にざまであるにも関わらず、早々に自殺と断定されて警察は引き上げていった。昔からこの土地ではよくある死に方なのだと、誰かが言っているのを耳にした。
(あの人が、ばあちゃん連れて行ったんかな)
お山に現れた黒いスーツの男性。
彼はどうして山の中で死んだりしたんだろう。祖母は彼に一体何をしたんだろう。
気にならないと言えば嘘になる。けれど、来夢は「どうして今更」「総司の奴がまだいるのか」と小声で囁き合う老人たちの横を通り過ぎた。
祖母が聞かないでくれと言った過去の話を、今更掘り起こすような真似はしたくなかった。
嘘を吐いてはいけない。
満月の日にお山に入ってはいけない。
祖母の繰り返した言葉に、すべてが詰まっている。そんな気がした。
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