プロローグ ターゲット捕捉しました

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プロローグ ターゲット捕捉しました

「どうした? 変な顔をしているぞ」  駅の改札まであと数メートルのところで、穂高(ほだか)は俺に振り返った。  変な顔、ああ、しているだろう。  お前と比べたら俺は変な顔だよ。  穂高は誰が見てもイケである。  背が高いからか顔の作りも彫りが深く、しかし、ごつごつしていないその顔は、クラスの女子に言わせれば王子様のように綺麗な顔立ちなんだそうだ。  そんな華やかな顔をふちどる少し癖のある髪は、染めてもいないのに薄茶色で、天使のような輪っかだってみえる。彼の無造作短髪ヘアが艶やかなのは、無造作どころか千円カットの俺と違ってちゃんと美容院でカットされているからかもしれないが。  また彼は、顔だけじゃなく体つきだって最高だ。  百七十という日本男性の平均身長の俺と違って百八十三という背の高さで、手足の長さは勿論、体つきのバランスで雑誌モデルそのものなのである。  そんなどこから見ても華々しい親友のお前に、どこまでも地味な俺が変な顔をするのは当たり前だろう?  俺の初恋は小学四年生の時で、クラス一正義感が強くてクラス一元気がよかった吉花(きっか)茉莉(まつり)ちゃんだった。  しかし、彼女は穂高(ほだか)(つかさ)に恋していた。  次に恋したのは中学二年の時で、図書委員で一緒になった、結城(ゆうき)初音(はつね)さんだった。  彼女はやっぱり穂高に恋をしていた。  俺の恋は悉く、この目の前の親友によって粉々にされているのだ。 「大丈夫か? 具合でも悪いのか? このまま家に帰るか?」  そして、穂高は俺の恋した女の子達に心を惹かれ無いどころか告白を全て断り、それどころか、俺を完全に親友で相棒と決めつけて、同じ高校を選んだという馬鹿者だ。  いや、馬鹿じゃないか。  俺のせいで彼がかなりのランク下高を受けたら俺が自分の母親に殺されるからと、俺は猛勉強をし、穂高の志望校をランク一個下げる程度に留めたのだ。  いやいや、そのおかげで高校は特待生で学年一番なのだから、俺は穂高の両親に感謝されていなかったか?  いつまでも仲よくしてね?  仲よく出来たらいいね。  俺はそろそろ穂高とつるむのが難しくなってきた。  それなのに、当の穂高は俺に心配した顔を見せている。  眉根までも寄せて、本気で心配している、という顔付で。    俺は穂高をじっと見つめると、いつもの嘘を吐いた。 「靴に小石が入ったっぽい」  穂高はほっとしたような微笑みを作ると、ひょいと俺に腕を差し出す。  まるで王子がお姫様に腕を差し出すようだと思いながら、俺はいつものように彼の腕に自分の右腕を絡めた。 「わりい」 「いいよ。靴が大きいのかな? 足に合った靴を履きなさいよ」 「バカにしやがって。ローファーってなんかパカパカするじゃん。だからだよ」  小石も何も入っていないんだけどさ。  俺は何ともない左の革靴から足を抜き、いかにも小石を靴から捨てるような仕草をして見せた後、再び靴を履き直す。  その間、俺の右腕は穂高の腕に絡め、自分の体重を彼の腕にかけていた。  このぐらいの嘘は許されるだろう?  お前に俺は恋心を台無しにされてきたのだから。 「さんきゅ。穂高」  俺はいつものように顔を上げて、なんてことない顔を穂高に見せた。  なんてことない、それこそ辛くなってきたなって思いながら。  だってさ、お前が当たり前のように俺の右側にいるせいで、俺はお前にこそ恋をしてしまったんだよ?  お前はいつだって俺にばっかり優しいからさ。  そんな心が漏れないようにと気持ちを固く固く胸に閉じ込めながら、俺はいつものように穂高に笑って見せたが、そこで、俺の表情は固まった。  穂高こそ泣きそうなおかしな顔をしていた、のだ。 「穂高? どうしたんだ? 変な顔をして?」  ぽつっと、俺の額に水滴が落ちた。  穂高の涙。 「どうした?」 「俺は、君を失いたくないよ。でも、もう我慢が出来ないんだ」 「穂高?」 「俺は、君が――。」 「ターゲット捕捉しました。召喚呪文の詠唱をお願いします」  穂高の声を掻き消したのは、大人の男性による静かで低い声だった。  その声が後にその声が命じたことが起きたのか、俺の頭の中で聞いたことの無いメロディーの歌声が響き始めた。  穂高は俺を見つめて俺に何かを言っているのに、俺は彼の声が聞こえない。  穂高の口は、俺を、ああ、俺を何だと言っているんだ?  俺は穂高の腕に絡めた自分の腕に力を込めた。  すかっと空振りした感触しか感じなかった。 「え?」  俺は穂高の腕に自分の腕を絡めていたはずだが、俺の右腕はその格好のままという間抜けなポーズを取っているだけとなっている。俺の横から、俺の隣にいたはずの穂高の姿は、――消えていた。  駅の雑踏さえも!  俺は銀色に輝く蜘蛛の巣にような円陣の中にいて、その円陣の周囲には大勢のマントを羽織ったコスプレ野郎たちが拍手をしているのである。 「なんだこれは!」  俺は叫ぶしかない! 「なんだよこれは!」
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