罪悪感を凌駕する、無理だって

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罪悪感を凌駕する、無理だって

 俺は咄嗟に穂高の顎を両手の手の平で支え、俺の顔から彼の顔を遠ざけていた。 「ひどい! 昴輝!」 「君は性急だよ。ごめん」 「どうして! 俺はずっと昴輝が好きだった。ずっとずっと好きだった。ようやく告白しようとしたところで、あいつらが昴輝を俺から奪ったんだ。キスぐらいさせてよ! 昴輝も俺が好きだったんだろう? 俺は、俺は一年も昴輝を、昴輝だけを求めていたんだ!」  俺の両手は穂高の顎から外れ、その代わりのように穂高の両肩に俺の両手のそれぞれは回された。  穂高の顔が再び俺に下がって来て、俺はゆっくりと目を閉じた。  あの日まで、穂高の腕に腕を絡めるその行為だけに満足していたあの日まで、俺は穂高のこの唇を望んではいなかったか?  果たして、穂高の唇は俺の唇に重なったが、そのキスは単なるマウストゥマウスのキスだった。  俺が出来たのはそこまでだったのだ。  俺はヴィクの唇に応えたようにして穂高に唇を開ける事が出来ず、心の中でひたすらに穂高に詫びていた。  俺が簡単にヴィクに口を開いてしまったのは、ヴィクがキスが上手かったからだけではなかった。  俺がキスがしたいのは、ヴィクだけだって事だったのだ。 「愛しているよ。凄く愛している!」 「うれしいよ。凄く嬉しい。でもお願いだ。しばらくは昔みたいに友人として振舞ってくれないか。急すぎて俺は」  たった一か月でヴィクに恋をしてしまった俺ならば、時間をかければまた穂高だけを愛せるようになるかもしれないじゃないか。  俺は穂高に引き寄せられ、耳に囁かれた。 「今日だけ。明日からは君の言う通りにする。だけど、今日だけ。ようやくなんだ。君が殺されたと思いながら生きてきた一年は辛かった」  俺はしっかりと穂高を抱きしめた。  愛していた親友の体。  俺だけを愛して独り苦しみ、俺の為に自分の未来の全てを捨ててしまっていた穂高を、俺が撥ね退けてしまう事などできようか。  でも、キスも出来ない俺が、これ以上の行為を穂高と出来るのか?  しかし、俺が悩むよりも穂高の動きの方が早かった。  穂高は俺から体を起こすと、ポイポイと自分の服を脱ぎ捨てだしたのである。  本気で最後までやろうとしているのか? 「ま、まままま待って! き、君の一年は申し訳なく思う。君の為なら何だってしたいと思うよ。だけど、その行為は今すぐには無理だよ!」 「君は俺を愛していないのか?」 「お前は相思相愛になったその日に相手に肉体関係を求めるのか!」 「俺は一年待ったんだ! 一年ずっと君を探していたんだ! 君と一つになりたいと思って生きて来たんだよ!」 「わあ! 声が大きい!」  俺は起き上がって、穂高の口を押えた。  どうしよう?  彼は彼であって彼ではない。  俺の知っていた穂高じゃない。  のんびりした喋り方をして、いつもニコニコと微笑んでいるだけの、気のいいだけの男じゃ無くなっている。 「穂高、ごめん。本当にごめん。だけど、だけど、俺は」 「大丈夫だよ! 痛くしないようにするから」  え?  俺はそこでようやく自分の思考が色恋から離れた様な気がした。  いや、まさに色恋の悩みになるだろうが、苦しんでいた穂高への罪悪感的な何かばかりの思考から飛び出せたとも言って良い。  え?  俺がされる方? と。 「ちょ、ちょっと、待てよ。俺がされる方?」  俺ははっとしていた。  どうして俺が挿入()れられる前提なんだ、と。  確かに、穂高と恋仲になることを考えながらの恥ずかしい一人遊びを、俺は過去に何度かした事もある。  しかしながら俺のその妄想は、仄かな恋心に裏付けられた穂高に抱きしめられる的な可愛らしいものであり、穂高に差し込まれたり差し込んだりな部分を俺は一切想像していなかったと言える。  え、やっぱり俺こそ挿入()れられたいって思っていたって事か?  いやいやいやいや。  動揺した俺に対して、穂高は当たり前のように追撃をした。  とってもいい笑顔を俺にして見せて、酷い台詞を吐いたのだ。 「俺は昴輝に突っ込む事しか考えていなかった。だから大丈夫。君が我慢できないぐらいに痛かったら途中でやめるから、やってみようよ?」 「そんな歯医者の約束みたいな台詞に騙されるか! だ、大体、女の子じゃない俺には女の子みたいに挿入()れる場所なんか無いじゃんか! 女の子だってすごく痛いって聞くのに、――」  進撃していいって事だな?  ヴィクの声が脳裏に蘇った。  お前もか!  いや、俺が穂高を掘るなんて考えたことも無いけどさ、いやいや、ヴィクだったら、やっぱりどころか、否応なしに掘られる立場だ。 「どうしたの? 昴輝?」 「どうしたもこうしたも、どこに挿入()れるってそこしかないけれど、ほ、穂高のさ、そのおっきくなったのを見たことないけれど、おっきくなってなくともあそこに挿入()れるのは無理じゃ無くねぇ?」  俺は修学旅行や互いのお泊り会などで穂高と一緒に風呂に入り、そこで見た穂高のモノを思い浮かべながらかなり脅えた。  王子様だけあって、なかなか立派なものをぶら下げているのだ、彼は。  そこで俺は、やはり一緒に風呂に入ったヴィクのモノも思い出してしまった。 「ハハハ。無理だよ。絶対無理」  好きになるとかの悩み以前に、最終的に俺の尻の穴が関係してくるのならば、ヴィクでも穂高でも俺はお断りせねばならないだろう。 「駄目だって思っているから駄目なんだよ?」 「別の状況で聞いても適当で暑苦しいだけの台詞を吐くなよ?」  俺は笑顔の穂高に言い返したが、穂高は物凄く良い笑顔をしているだけあって、俺の下ばきを脱がそうとする極悪な行動をとってきた。 「わああ! 馬鹿あ!」
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