忘れていたあそこの秘密

1/1
前へ
/37ページ
次へ

忘れていたあそこの秘密

 学校のクラスメイトが俺と穂高を遊びに誘う際は、必ずと言っていいほどに俺にどうするか聞いてくる。それは王子様な穂高に近づきがたいオーラがあるからではなく、穂高が必ず俺にどうするかお伺いを立てるからである。  昴輝はどうするの?  俺は昴輝が行くなら行く。  そんな台詞しか返さない奴なのだから、俺に聞いた方が早い、とクラスメイト達が思って実行するのは仕方がない事と言える。  そんな穂高が俺に何のお伺いも無く、俺の下ばきを剥がそうとしてきたとは!  異世界は中世だけあって、ショーツにゴムひもなど無い。  よって、シルクのような柔らかい砂時計みたいな形の布に、紐が付いているだけという、つまり、左右の腰骨の当たりにリボン結びするという形状のものとなるのである。  また、俺を可愛らしくするを信条にしているらしいヴィクによって、ヴィクが履いていたような黒色やグレーあるいは生成りのシンプルで恰好良いものではなく、俺に与えられたものは女性が履いた方がしっくりとくるぐらいに恥ずかし可愛いものなのである。  畜生、ヴィクめ!  俺に情け容赦なくなった穂高は俺の異世界ズボンを簡単に剥ぎ取り、そこで俺は水色にピンクのリボンが付いているショーツを履いていた事を暴かれてしまったのだ。  マッパになるよりも恥ずかしいこの仕打ち!  が、マッパにされた方が恥ずかしい事を俺は忘れていた! 「こんなパンツを履かせられて! 何だよ! すね毛も何も無いじゃないか!」  穂高は怒り声を上げながら俺のショーツをずり下げて、そこで固まった。 「君はあの男の愛人でもしていたのか? あそこの毛も一本も無いじゃないか」 「ば、ばばば、馬鹿言うなよ! こ、これは、俺の安全のための処置なんだよ! あいつはいつも言っていた。可愛い馬鹿だったら、誰も警戒しないでさ、可愛いから生かしておこうってなるって。だ、だから」 「子供みたいな下半身に? そこまでする必要があるの? こんなことをするのは、君を誰かの愛人か何かに贈る予定でもあったと見るべきだよ?」  俺は観念したように両目を閉じ、すまん、と謝った。 「やっぱり!」 「違う。炎の魔法で毛根を焼けるって聞いてさ、こっちでウン十万かかるメンズエステの全身脱毛がタダで出来るなら、やってくれと頼まないか?」  対して痛くはないが、穂高を俺の頭をぺしっと叩いた。  そして俺を襲おうとしていた彼はその勢いを失い、それどころか、俺の赤点を嘆くような雰囲気で両手に顔を埋めた。 「あああ。君が相変わらずの馬鹿野郎で嬉しいよ」 「――ごめんな。穂高。」  ほんとうにごめんな。  お前は俺を案じて一年も辛かったのに、俺はこんな能天気でごめんな。 「異世界に行ったならさ、なんかいい事を探したいって思うじゃない? もう二度とこっちの世界に帰れないって覚悟していたなら尚更さ」  穂高は両手を顔から外し、俺に微笑んだ。  微笑んで、君らしい、と言ってくれた。  俺はこんな純粋な穂高を騙しているような気持になり、罪悪感で胸がチクリと痛んだ。  そしてその痛みを受けたことで、ヴィクが俺を召喚した事に罪悪感を抱いていると何度も言ったことを思い出した。  罪悪感。  それで彼は俺に優しく、俺を守ろうとしていたのかな。  ほら、簡単に俺を穂高に返してしまったじゃないか! 「ごめん。昴輝だって辛かっただろうに。俺は、俺ばかりで」  俺は涙を両目に溢れさせていたようで、そんな、他の男を想って泣く様な奴を穂高は思いやってくれたのだ。  昔のように。  穂高こそ俺を一番に考えていた、から。  俺は大きく首を振って涙を飛ばすと、穂高を抱きしめた。  上半身裸の男と下半身に変なショーツを履いている男というちぐはぐな二人だが、俺は穂高を抱きしめてやることしか出来なかったのだから仕方がない。  抱きしめて、穂高が本当に痩せていた事を思い知らされた。 「お前、ガリガリだ。ちゃんと食べような。これからはちゃんと食べような」 「君だってたった一か月で細くなっている」 「あっちの飯は不味かったからな」 「じゃあ、美味しいのを食べよう」 「だな。俺達はちゃんと食べよう」  ヴィクは一人であの不味いスープを飲み続けるのであろうけれど。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加