ファルカス自治区

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ファルカス自治区

 コルカスは簡単に陥落した。  勇者によって望まぬ進軍をしていたキドラ兵は、勇者を異世界に返したとヴィクトルが叫べば簡単に自国へと敗走して行った。  また、コルカスを守備していたダンドール兵は、東部カナンに籠っていた王弟カールが王都を目指したとの報を受けるや、ヴィクトルに応戦するどころか職務を放棄して王都に戻って行ったのである。  そして、完全にがら空きとなったコルカスを占拠したヴィクトルは、ファルカス自治区の旗を立て、ダンドール国内に向けて出来うる限りのファルカス人の帰還を呼びかけた。 「たった三か月でなんとか防衛線は引けましたね」  ダンドール人がファルカス城を改造して作り上げたコルカス砦の、戦略室ともなっている広間にヴィクトルとジョサイヤはいた。部屋の真ん中にある大き目の木のテーブルにジョサイヤは大陸の地図を開き、コルカス地域のおいてヴィクトルが力を及ぼせる範囲に真っ赤な線を引いている。 「皮肉か。本来の土地の四分の一だ。集まったファルカス人には放棄された農地を与えて耕せているが、そこからの収穫は来年の春まで待たねばならない。冬を越すための食料の買い入れと備蓄が急務だ。思ったよりも勇者様の大暴れが酷かったな」 「穀倉地帯を一気に焼いてしまいましたからね。あの作物が残っていれば、もう少し大き目の陣がひけたでしょうに。でも、ま、よしとしましょう。我々は戻って来れた。勇者は砦を破壊しなかったから、防衛のための城壁もあるし、雨露をしのげる居場所もある」 「そうだな。それでもまだまだ心許無い」  異界流しという異空間に死体を捨てる事の出来る男ならば、敵食料を盗んだ時にはそれを異空間に隠してしまう事も出来る。  食料どころか、ファルカスから奪われた金や財宝なども、見つければ奪い返して隠して来た。  しかし、今後の戦闘が防戦一方になるならば、今まで備蓄しているものだけで賄わねばならなくなると言えば心もとなさすぎるのである。  ヴィクトルがこれからすべきことは、ファルカスの復興計画よりも、キドラとダンドールによる侵攻を防ぎきる案を見つけ出すことなのである。  自治区と宣言したが、実際はヴィクトルがダンドール国の領地を占領しているだけの状態でしかなく、これを守り切ることができてこそ国としてなすことができるのである。  キドラも勇者によって多大な損害を受けているので、今すぐにファルカス自治区を襲ってこないだろうが、春の収穫が終わった頃には確実にその収穫狙いで兵は動くと想定できる。  しかしながら、ダンドールは軍備が整い次第に攻めてくるであろう。  三か月前にクーデターを成功させたカールが、王としての最初の職務としてヴィクトル討伐を選ぶことが確実だと言う事だ。  快活で兄よりも臣民を大事にする人物と評価が高かった男だが、カールは結局は甘やかされた王子様でしかなかったのだ。  東部での田舎暮らしはカールの幼稚な部分ばかりを浮き出させ、彼を諫めるものがいれば激高したまま首を刎ねていた。  カールのそんな振舞いはヴィクトルにとっては朗報でもあったが、カールが逃がした臣下など権力を盤石なものにすれば勝手に戻って来るし、他の者に簡単に替えの利くものでもある。  よって、ダンドール国を裏切ったヴィクトルの首を刎ねることができれば、カールへの臣民の支持率も上がるだろうと思えば、カールがファルカス自治区に侵攻してくるのは確実すぎるぐらいに確実なのだ。  ヴィクトルはここまで考えて、自分がどうして勇者に簡単にアキを返してしまったのだろうとぼんやりと思い返した。  思い返しながら、ヴィクトルはこの行為が日常化どころかことあるごとにしてしまっていると、自分を自嘲していた。
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