泣き出しそうなほどの幸せ

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泣き出しそうなほどの幸せ

 俺はヴィクの棒キャンデー状態になってしまった。  それも、ひとなめで溶けてしまう粗悪品だ。  俺は直ぐに弾けさせ、しかし、ヴィクは俺のものを被ったはずなのに、楽しそうに笑い声をあげるだけだ。  俺は慌てて自分の荷物に走り、そこからウエットシートを取り出して、ヴィクの顔を拭き始めた。 「ご、ごめんなさ」 「大丈夫」  ヴィクはウエットシートを握る俺の手の手首をつかみ、俺の唇に彼の唇を重ねて来た。  とても優しいキスであったが、ヴィクの両手は凶悪この上ない。  俺の手首を掴んでいた手は、いつの間にか下へと動いて俺の足を抱え込むだけでなく股を広げて押さえつけ、もう片方の腕の指先は、彼の最終目標という場所に進められているのだ。  そ、そこは、汚い場所でしょう?  俺の精を顔に被ったばかりの人に、俺はその人を止められるような言葉など何も言えない。  ただただ、ごめんなさい、だ。  恥ずかしい所を弄られても、恋した人がしたい事だから許してあげるべきだし、今のところは恥ずかしいをさらに恥ずかしさせる、性感を与えられているのだ。  いやヴィクを止めたいなどと、自分を誤魔化すのも止めよう。  俺の前は後ろを嬲られているうちに猛り出し、俺こそヴィクの唇を貪るようにキスを深め、彼の肩に両腕を回しているじゃないか。 「愛しているよ、アキ」  深くて滑らかな低い声が耳元に囁かれ、俺の後ろに異物をぐいっと差し込まれる違和感を受けた。 「うわあ、やっぱり無理」 「大丈夫。指を一本入れただけだから。このままリラックスして」 「めっちゃいい笑顔でリラックスゆうな!」 「ああ、本気で可愛い」  俺の足は開放され、その代わりにヴィクの素肌を太ももに感じた。  彼は下を脱いだのか。  俺は自分の手を動かして、ヴィクの上半身も裸にするべく、ヴィクのチュニックの中に手を入れ込んだ。 「俺が全部脱いだら俺を止められないよ?」 「俺だってヴィクの全身が見たいんだよ」 「最高だ」  俺の後ろから指は抜かれ、その代わりとしてヴィクが次々と全部を脱いだ。  締まった体を覆う筋肉は以前よりも硬そうになっており、以前には無かった白い筋という傷跡も何か所か見受けられた。  俺は自然に体が動いて、ヴィクの傷跡を次々に口づけ、舐めていた。  この傷がヴィクをこの世から奪うことにならなくてありがとうと、神様に感謝している気持ちで彼の体に口づけた。  そして、そそり立つ彼そのものに口づけるぐらい、普通の流れであった。  俺は俺にヴィクがしたようにして、舐めて、吸い、口づけたのである。 「ああ、アキ」 「愛しているよ。ヴィク」  俺が舐めたり吸ったりすることで、ヴィクは快楽を教える吐息を漏らし、声まで上げてくれる。  俺は彼に快楽を与えられる事が嬉しくて、彼に幸せを与えているような充足感までも感じて、一層に彼への行為に集中していった。 「ああ、駄目だ」 「気持ちよくなかった?」 「気持ちよすぎて大変だ。今日の俺は一回出したらお終いだ。さあ、俺の好きなように出させてくれるかな」  後ろを使う?  俺は瞬間的に脅えたが、ヴィクの猛っているモノを見れば、その状態が同じ男ならば辛いとわかる。  だから、いいよ、と言った。  ヴィクは俺を彼の下半身から身を起こさせてうつ伏せに寝かし直し、そして、俺の腰を抱え上げたのならばその行為に移るのかと身構えた。  けれども彼は俺の後ろに迫って来たが、俺には挿入()れなかった。  俺の股に自分のものを挟ませたのだ。  俺はぎゅうっと太ももに力を入れ、彼のものをしっかりと挟んだ。  それを合図にヴィクは腰を振り始める。  ヴィクのものは俺の股の間を擦り、肛門から棒までの薄い皮膚こそ性感帯になるのだと彼に教え込まれるようだった。  温かくシルクのような滑らかな肌触りの凶悪なそれが、蛇のようにして俺の股の間を蠢き、ヴィクの手は俺のものを扱き始め、高ぶりながらも下半身がどんどんとせつなくなっていく。  しばしの後、俺は彼が出す時に一緒に果てた。  俺は力を失ったが、俺と同じように力を失った男が、それでも俺を離すまいと自分の胸に俺を抱え込みながらゆっくりと倒れた。  食器棚の整頓されたスプーンみたいに俺とヴィクは重なっているが、背中に感じるヴィクの逞しい胸の感触も素晴らしいものだが、俺はヴィクの顔が見たかった。  三か月間恋い焦がれていた彼の顔を見たかった。  俺は彼の腕の中でゆっくりと体を動かし、彼と向かい合わせとなった。  微睡みかけたヴィクの顔はこれ以上ないくらい満足そうで、初めて見たぐらいに緩み切ってあどけなくて、これが自分が為せたことだと知って天にも昇る気持ちとなった。 「ああヴィク! 愛している!」  ヴィクは言葉を返さなかった。  同じ言葉を返してくれなくとも、俺はこれ以上ないぐらいに幸せになれた。  だって、ヴィクは喉が詰まって声が出ないだけなんだよ?  俺はヴィクに腕も足も絡めて抱きついた。  俺こそ泣き出したいほどの幸福感に包まれていた。
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