ヴィクの立場

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ヴィクの立場

 ヴィクは俺の右側に位置して堂々として歩いており、彼の左腕は俺の背に回されて俺を支えてくれている。  俺を守っているような腕でもあるが、普通に連行されている虜囚気分になってしまうのは、ヴィクが軍人さんでもかなり偉い人だったと、たった今知ったからであろうか。  なぜ知ったのか。  俺達の後ろを焦げ茶色の短い髪をしたヴィクの護衛官がついて来ているからであるが、その彼がヴィクに対して、隊長、と恭しく声をかけたのならば、彼はとても偉い人なのである。  後ろを歩く護衛官は、ヴィクよりも背が高くヴィクよりも筋肉で膨らんでいたが、ヴィクと同じ服を着込んでいる。また、ヴィクがつけてない真っ黒のマントを羽織り、尻尾を齧って輪っかになった蛇の形をした銀細工の留め具を飾っていた。  蛇には小さな翼が生えており、その翼は三枚という不可思議な枚数だ。  ヴィクの服には無い高級そうで偉そうな飾りをつけている上に、ヴィクよりも大柄で威圧的な雰囲気もある男が、ヴィクに対して常に伺うようして振舞っているのだ。  ヴィクが物凄く偉い人だったと、俺が思うのも当たり前だろう。 「ヴィクは近衛の隊長さんだったの?」  俺は思いついたそのまま尋ねていたが、自分の声が小さな声で良かったと思いながら、カタコトだ片言でと、自分に言い聞かせた。  今の喋り方は流ちょう過ぎだ。 「俺達は近衛なんかのお飾りでは無いですよ!」  うわあ、軍人は耳ざとい!  俺は失敗したと思いながら大男の怒ったような声に驚き慄き、ヴィクの胸元の布地を右手で掴んでいた。  ただしそれが俺が穂高にいつもやっていた素振りだったと、思わず見上げた顔がヴィクであったことで思い出した。  通学電車の中で。  校内の廊下で。  俺はビビりだから、何かがあるとこうして穂高のシャツ、あるいはブレザーの布地を掴んで彼にくっついていたのだ。  後ろを歩く軍人の声に本気で驚いて、驚いて脅えたからこそ自分の「脅えれば穂高に頼る」という習性が出てしまっていたのだと。 「うわっ」  俺の背中にあったヴィクの腕に力が籠り、俺は抱え込まれるようにして彼の胸に押し付けられてしまった。  俺はヴィクの布地を掴んでいる、ではなく、ええと、胸の中に抱え込まれたという親密な体勢じゃないか! 「俺、あの、ごめん」  ふはっと、ヴィクが吹き出して見せた。  それから、うわっ、笑顔で俺に流し目までしてきたとは!  あなたの甘い笑顔のせいで、俺の腰は抜けそうだよ。  俺は女の子が好きで、穂高を好きになったには穂高だったからだと思っていたけれど、本当は、最初から、男の方が好き? だったのかな。  いやいやいや。  穂高も王子様だったじゃないか!  そんでもって、ヴィクは大人の渋みがあるという、堂々たる王子様なんだよ?  いいや、王様だ。  俺を召喚してがっかりしていた、この国、ダンドール王国の小太りの王様や側近達よりも王様らしい風格の男じゃないか。 「ははは。脅えてしまったな。ジョサイヤ、お前のせいだぞ」 「あ、ああ、すいません。思わず。あなたをあんな貴族というだけの無能集団と一緒にされたと思ったら、あの」 「こら、それこそ大声で言ってはいけない。俺達は彼らがお飾りのお陰で、王宮の警護業務を完全に任されているのだからね」 「そこもあいつらに馬鹿にされていますけどね。俺達を奴らの下働きだと思い込んでいやがる」 「それでいいんだよ。下っ端の動きに彼らは一々興味を惹かない。この可愛い勇者様を守るお仕事を俺達に一任してくれる。ありがたい事じゃないか」  そこでジョサイヤという名の兵士は、俺がもっとヴィク抱きつきたくなるような凄みのある表情をして見せた。 「俺達は君に期待をしていいのかな?」  なんて答える? なんて悩む必要なかった。  すぐにヴィクが代りに答えていたのだ。 「ああ。期待はしていてくれ。大丈夫だよ、この勇者様は俺達の想いを叶えてくれるだろう。確かなお人だ。お前達が心配はする必要ない」  ヴィクの言葉にジョサイヤは嬉しそうに喉を鳴らして笑い声を立てたが、俺は不安ばかりだ。  俺は勇者じゃない。  いいの?  俺のせいであなた方は不幸になりませんか?
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