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ヴィクトル様的男性エステ
男同士で、相手がノンケなのだったら。裸同士の付き合いとなっても、俺があからさまに恥ずかしがる必要なんてないはずだ。
服を脱ぐ前はそう自分に言い聞かせました。
毎朝俺の裸をヴィクは見ているんだから、今更ヴィクに裸を見られたからと俺が恥ずかしがる必要もないでしょう、と。
しかし、事態というものは真実を前にして初めて動き出すもので、俺の裸をヴィクが舐め回すように見るどころか、俺がヴィクの全身をじろじろを見回してしまう方となってしまった。
黒船だー! と江戸時代の人が騒いだ気持がわかるぐらい、俺は両目を見開いて、光沢して見せる程に滑らかな肌をした美丈夫の全裸から目が離せないのだ。
「うそお! どうしてどこもかしこもツルツルなんですか! ムダ毛がぜんぜん無いじゃないですか!」
ムダ毛が無いのは異世界だからか?
異世界人だからか?
ファルカス人だからか?
電車の広告に男性用脱毛エステの広告がある世界だよ、俺の世界は。
でも、一般高校生である俺がエステになど通えるはずもなく、俺の脛や大事なところは、大事なんだよ、と言う風に黒々もっさりしている。
ところが!
脱いだヴィクは本物の神様の彫像だったのですか? と聞き返したくなるほどに、ツルツルでピカピカで、この完全なる肉体美を彩る筋肉を余すところなく鑑賞しなさいと言う風なのだ。
「うそ! こっちの世界の人は毛深くないものなの! 実はサルが進化したのは俺の世界の人達だけなの!」
「ぷ、ははっは。本当にアキはおかしい。魔法があれば、無駄な毛を焼くぐらい朝飯前なんですよ。虱が大事な所に付いたら嫌でしょう?」
「ああそうか魔法か! 凄い! いいな! 俺は今本気で魔法使いになりたいって思ったよ。俺もムダ毛焼いちゃいたい」
「ハハ! 君の生え方は可愛いのにね。どうします? せっかくだから、アキの望むところの毛を焼いてあげましょうか?」
俺に悪魔が囁いた。
月々九千八百円とか広告が謳っている、実際は総額ウン十万円かかるあの脱毛を、ただでやってもらえるんだよ? と。
「ま、まずすね毛をお願いします!」
「では、まず体を綺麗にしましょうか?」
「はいい!」
その後は、完全に大人と子供だ。
俺はヴィクの言う通りに体を洗い、湯につかり、と、彼が言う通りに何だって動いて見せた。
しかし、久々の湯は、ああ天国、それしかない。
そして今は、ヴィクに言われた通りに噴水の縁に腰を下ろしている。
俺の足元の跪いているヴィクに、俺の下半身のものが丸見えだと、俺は両手でそこを隠したが、そここそ虱が卵を産むぞと言われて手を外した。
これは単なる脱毛という施術でしかない。
そうだとわかっていても、俺の足の間にヴィクが座り込んでいる。
恥ずかしい。
でも、すぐに低い低いい滑らかないい声で、でも俺には聴き取れはしない呪文を彼が唱え始めたことで、俺から恥ずかしさなど一瞬で消えた。
軽く目を瞑った事で、彼の額から鼻のラインが際立ち、俺は彼の整った顔を見下ろすことに夢中となってしまったのである。
俺に見つめられていることを知っているのか、彼は詠唱しながらもニヤリと笑い、けれど俺の右の脛の足首付近に指先を当てる手はとても優しい仕草だった。
また、彼の左手は俺のふくらはぎに添えられているが、その左手はゆっくりと動き出し、俺の膝の裏までをゆっくりとなぞっていった。
俺はその指が起こす感覚に、腰骨の辺りがびりびりと感じている。
これは魔法行為では無いと言い切れるのは、腰骨のビリビリによって、俺の大事な所が少しずつ腫れ始めているからである。
朝のタオルが幸せなのは、彼がタオルで俺の背中を撫でる時、その時に毎回気持ちが良いと俺が堪能してしまうからなのだ。
俺は急に浮気をしているような感覚になった。
俺は穂高の恋人でもないのに、穂高を裏切っているような感覚になったのだ。
「あの、やめよ……って痛~い!」
右足足首に添えられていたヴィクの手のひらが、一気に俺の右膝まで滑るように動いたのだ。
右脛に感じた痛みは、ガムテープでムダ毛を剥ぎ取られたような、そんな感覚だった。
「ハハハ、一気に焼いちゃいましたよ。さあ、左足も」
俺は脛の痛みによって、浮気しているような罪悪感も吹っ飛んでいた。
これは単なる脱毛エステだ。
そう思い直して左足を素直に出したが、左足も同じようにやられた。
快楽を与えて俺の体が緩んとしたその一瞬、恐らく毛穴の毛根以外を焼かないように施術される俺をじっとさせるためなのだろうが、気を抜いた途端に痛みを与えられるのは心臓に悪い。
凄くドキドキするのだもの。
そして、左足が終わった時点で、俺には恐怖がやって来た。
魔の三角地帯。
ここに快楽を与えて痛みを与える?
「まってまって、き、今日はここまででいい!」
「思い立ったら行動すべし。案ずるよりも産むが安しでしょう? この場合毛根を殺してしまうのですけれどね。」
「いや、だから、あの!」
ヴィクの優しいが有無を言わせない手が俺の三角地帯に伸びて来た。
そうだ、彼はノーを聞いてくれない男だった!
俺の大事なものは優しい手によってかなりしっかりと握られ、俺はその手を撥ね退けるべきだと声を上げかけたそこで、ヴィクに低い声で耳元で囁かれた。
「さあ、両腕は俺の首に回すんだ」
完全に命令形。
彼が部下のジョサイヤにしていたような喋り方。
逆らってはいけないと、俺は両腕を彼の首に回した。
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