金の山と話

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 俺は閑散とした郊外の隠れ家に草壁を呼んだ。照明を落とした薄暗い部屋で交渉をすることになっていた。  俺は部屋の奥に設置している巨大な金庫からスーツケースを十個持ってきてテーブルの上に並べた。重たいスーツケースを十個も運んで俺は肩で息をしていた。  椅子に腰を下ろすとテーブルの反対側の椅子に座っている草壁が怪訝な顔をした。 「このスーツケース、どうしたんだよ?」 「中を開ければ話がわかるさ」  俺はスーツケースの一つを開いて見せた。中には夥しいほどの現金が敷き詰められていた。  それを見た草壁が悪魔のように笑みを溢していた。草壁は金に弱い男なのを俺は知っていた。 「ちょっと待ってくれ。全部でいくらあるんだ?」 「二十億だ」  草壁が腑抜けた人形のように、ぽかんと口を開けていた。草壁は他のスーツケースも開いて、中に金が入ってることを確認すると驚きで身を震わしていた。 「おいおい。本当に二十億もあるんだな。この大金でどうするつもりなんだ?!」 「殺し屋のおまえにどうしても依頼したくて、非合法な仕事で金を集めてきた。これで政治家を一人、暗殺してくれないか?」  草壁が金の山を見てごくりと唾を飲み込んだ。 「おまえは本気なんだな。それで誰をやればいいんだ?」 「伊藤薫だ」  草壁がその名前を聞いて眉間に深い皺を寄せた。口で手を覆って眉根を下げると苦い顔をしていた。 「次期首相になると噂されている奴だな。SPが常に何十人もいる」 「だから二十億という馬鹿げた金なんだ。おまえしかいない。引き受けてくれ」  草壁が神妙な面持ちで俺に尋ねた。 「おまえはなぜそこまでして伊藤を殺したいんだ? 俺はどれだけ金を積まれても善良な人間は殺さない」  俺は大粒の涙を瞳から溢しながら話した。顔を涙で紅潮させていた。 「伊藤は昔、俺の幼馴染の片岡聡美を妊娠させた上でゴミのように捨てた。聡美は子供を下ろすしかなくて、それがきっかけで自殺した。あいつは人間のクズだ。俺は伊藤のことが許せない」  草壁は俺の話を聞いて瞳をじんわりと潤ませていた。しばらく沈黙が続いた後、草壁はおもむろに口を開いた。 「依頼は引き受けた」
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