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また一人が立ち上がった。
「北島さん、まだかかりそう?」
「もう少しで終わります」
「そう。戸締りよろしく。お疲れさん」
「お疲れ様です」
フロアで残ったのは美和一人になった。
今頃、どうしてるんだろう。
私に見せるようなうれしそうな顔を、あの子に見せて、楽しんじゃってるのかな。
思わず想像して、胸がチクリとした。
柴田にもらったネックレスのチェーンに指をかける。
張り合うつもりはない。
もちろん、今まで築いてきた関係をなかったことにするつもりもない。
でも、二人の間に何かはっきりと強制力のある約束や法的な決め事があるわけでもない。
目に見える糸や境界線があるわけでもない。
二人の関係を守るものなんて、本当のところ、何にも存在しない。
あるのは今までに彼からもらった言葉とお互いの感情の繋がりで、その感情の濃淡が変われば、関係が変わることもあるのかもしれない。
手を離したら、簡単に終わってしまう。
手を離したら、簡単になかったことになってしまう。
自分ではない誰かが隣にいることも、簡単にできてしまう。
何のカタチもない曖昧な関係だということに、美和は気付いてしまった。
だからって、結婚みたいな法的な形がほしいわけでもないけど。
……次々に浮かんでくる、今一人で考えても何も解決しないことを振り払うように、美和は頭を左右に振った。
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