28人が本棚に入れています
本棚に追加
iPhoneが震えた。
表に返して画面を見ると、
『今、どこ?』
柴田からのLINE。
『会社』と一言だけ返す。
時計を見ると、20時を過ぎたところだった。
20:30には出ようかな。
今日はもう、夕食はなしでいいか。
帰ったらお風呂に浸かってゆっくり休もう。
一人でベッドで体伸ばして、のびのび寝ちゃおうー。
と自宅ですることを頭に思い浮かべながら、この1枚で終わり、と決めたものがまもなく終わる頃、隣の席の椅子が後ろに引かれた。
「遅くまで、お疲れ様」
どさり、と柴田がそこに座って、美和の顔を覗きこんだ。
「そろそろ終わりそう?」
「え、何してるの?」
美和は驚いて、その顔をまじまじと見た。
「何って、迎えに来たんだよ?」
逆に柴田の方が意外な顔をして、そんなのアタリマエといった調子で言う。
「伊東さんは?」
「駅で別れた。電車、逆方向だったし」
「伊東さんの相談事は?」
「たぶん、解決したんじゃないかな」
「たぶん?」
彼がそんなふうに適当な言い方をするのは珍しい。
もし仕事のことなら、よほど内密のことでない限りは、その悩みがどんなことだったから、こんなふうに提案した、というところまで言いそうだった。
個人の秘密に関わることであれば、個人的なことだったから詳しくは話せない、とか。
美和は、ちゃんと話を聞こうと、彼の方に体を向けた。
「それより、美和さん」
柴田は、うれしそうな表情を隠さず、手に持っていたビニール袋を急いで差し出した。
「これ、先食べて」
美和は目の前にぶら下げられたそれを受け取り、袋の中から取り出す。
初めて見るデザインのカップに入ったアイスクリームだった。
「これ……」
「食べてみたいって言ってたじゃん。
そこのコンビニで見つけたから、買ってきた」
数日前、SNSで話題になっていた、期間限定・地域限定のティラミスを模したアイスクリームを、見つけたら食べてみたい、と美和が言ったことがあった。
そのアイスクリームだった。
最初のコメントを投稿しよう!