28人が本棚に入れています
本棚に追加
「いろんなコンビニで探してたんだけど、なかなかなくってさー。まさかこんな近くで見つかるとは。青い鳥の童話みたいだよね」
柴田は見つけた経緯を話してから、溶けちゃうから早く、と袋に残ったスプーンを取り出して美和に差し出した。
「うん、いただきます」
美和は戸惑いながらも、アイスクリームのパッケージを開けて、スプーンを握った。
急いで一口、食べてみる。
舌の上で、ティラミスの味がする。
冷たいからか、甘すぎなくてちょうどいい。
目の前で、何かを期待する眼差しがじっと待っている。
「子犬ちゃん」と親友の千枝が彼のことをそうあだ名するのが頭をよぎる。
何かほめられることをした子犬がご主人のご褒美を待っている、そんな目で見つめられている感覚になる。
美和は思わず笑いだしながら、
「すごく、美味しい」
と感想を述べた。
「やった! よかったー」
柴田は飛び上がりそうにその場でガッツポーズして無邪気に喜ぶ。
美和があの一言を言ってから毎日、出かけた先でコンビニを見つけるたびにアイスクリームのケースを覗き込んできたんだろうな、と想像する。
また一口、口に入れた。
甘くて、冷たい。
舌の上で溶けて消える瞬間の、コーヒーの苦味。
そして、とても、うれしい。
何気ない会話を覚えていて、一生懸命に探してくれたこと。
わざわざ買って持ってきてくれたこと。
喜んでもらいたい、という気持ち。
「ありがと、柴田くん」
美和はスプーンですくったアイスを柴田に差し出した。
「柴田くんも食べて。美味しいよ」
「うん、美味しい」
柴田もパクと口に入れて、満足気に笑った。
口の中で簡単に溶けて消えてしまうアイスクリームのように、その瞬間にしか味わえない気持ちもあるけど、胸の中にたしかに蓄積されていく想いも記憶もある。
美和は、空になった容器を机に置いて、柴田の手を握った。
「美味しかった。ごちそうさまでした」
「手、冷たくなったね」
アイスクリームの容器を持っていて冷えた手を、柴田の大きな手が握り返す。
美和は、握られた手のあたたかさを感じながら、体を伸ばして、柴田の唇にキスをした。
「……アイス、そんなに好きだった?」
ゆっくり唇が離れた時、耳元で柴田が聞く。
美和は笑って、それだけじゃなくて、と首を左右に振った。
「ワガママ言ってもいい?」
「何、何?」
いつも遠慮がちな美和が珍しいことを言うので、柴田は両手を握りしめて、楽しそうに次の発言を待つ。
美和は少しためらってから、ぎゅっと柴田の手を握り、額を彼の胸に押し当てて、言う。
「女の子と二人でご飯にいかないで欲しい」
最初のコメントを投稿しよう!