ある夜の恋のゆくえ

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「いろんなコンビニで探してたんだけど、なかなかなくってさー。まさかこんな近くで見つかるとは。青い鳥の童話みたいだよね」 柴田は見つけた経緯を話してから、溶けちゃうから早く、と袋に残ったスプーンを取り出して美和に差し出した。 「うん、いただきます」 美和は戸惑いながらも、アイスクリームのパッケージを開けて、スプーンを握った。 急いで一口、食べてみる。 舌の上で、ティラミスの味がする。 冷たいからか、甘すぎなくてちょうどいい。 目の前で、何かを期待する眼差しがじっと待っている。 「子犬ちゃん」と親友の千枝が彼のことをそうあだ名するのが頭をよぎる。 何かほめられることをした子犬がご主人のご褒美を待っている、そんな目で見つめられている感覚になる。 美和は思わず笑いだしながら、 「すごく、美味しい」 と感想を述べた。 「やった! よかったー」 柴田は飛び上がりそうにその場でガッツポーズして無邪気に喜ぶ。 美和があの一言を言ってから毎日、出かけた先でコンビニを見つけるたびにアイスクリームのケースを覗き込んできたんだろうな、と想像する。 また一口、口に入れた。 甘くて、冷たい。 舌の上で溶けて消える瞬間の、コーヒーの苦味。 そして、とても、うれしい。 何気ない会話を覚えていて、一生懸命に探してくれたこと。 わざわざ買って持ってきてくれたこと。 喜んでもらいたい、という気持ち。 「ありがと、柴田くん」 美和はスプーンですくったアイスを柴田に差し出した。 「柴田くんも食べて。美味しいよ」 「うん、美味しい」 柴田もパクと口に入れて、満足気に笑った。 口の中で簡単に溶けて消えてしまうアイスクリームのように、その瞬間にしか味わえない気持ちもあるけど、胸の中にたしかに蓄積されていく想いも記憶もある。 美和は、空になった容器を机に置いて、柴田の手を握った。 「美味しかった。ごちそうさまでした」 「手、冷たくなったね」 アイスクリームの容器を持っていて冷えた手を、柴田の大きな手が握り返す。 美和は、握られた手のあたたかさを感じながら、体を伸ばして、柴田の唇にキスをした。 「……アイス、そんなに好きだった?」 ゆっくり唇が離れた時、耳元で柴田が聞く。 美和は笑って、それだけじゃなくて、と首を左右に振った。 「ワガママ言ってもいい?」 「何、何?」 いつも遠慮がちな美和が珍しいことを言うので、柴田は両手を握りしめて、楽しそうに次の発言を待つ。 美和は少しためらってから、ぎゅっと柴田の手を握り、額を彼の胸に押し当てて、言う。 「女の子と二人でご飯にいかないで欲しい」
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