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「今日、何食べたの?」
PCをシャットダウンして帰り支度をしながら、美和は柴田の顔を見た。
純粋に、どこに行って何を食べたのかが気になる。
「パスタとピザ。駅の向こうの、最近できたイタリアンの店行った」
「へえ。美味しかった?」
「うん、まあ。でも正直、あまりよく覚えてない」
感想を聞かれた柴田が珍しく曖昧な回答をするので、美和は驚いて彼の顔をまじまじと見る。
さっきは、伊東里紗の相談の内容もあまり言わなかった。
彼のことだから何かごまかそうとしてるわけじゃないのだろうけど、記憶が飛ぶほどお酒が入った様子もないし、目の前にかわいい後輩がいるのがそんなに緊張した、ということ?
柴田は美和の反応を見て、少し言いにくそうに本当のことを告げた。
「実は、食事行く前にこのアイス見つけちゃって、美和さんに早く食べさせてあげたいなー、と思ってたから、半分意識がそっちに持ってかれてて。買いに行くまで残ってるかも気になっちゃって」
「じゃあ、あまり話聞いてなかったの……?」
「うん、ちょっと伊東さんに悪いことしちゃったかも……」
柴田は反省の表情を見せて、手で頭をかいた。
それは、かなり、悪いことしちゃったと思う……。
美和は里紗の気合の入った姿を思い出して、気の毒に思った。
彼女は私に気の毒に思われるのはとてもイヤだろうけど。
柴田くん、天然に失礼すぎるよ、それは。
据え膳食べないどころか、見えてなかったんだ……。
そんなこと、ある?
「柴田くん、悪い男だなー」
美和は支度を終えて立ち上がり、柴田の手を取った。
「悪い男?」
「うん。すっごく悪い」
美和は笑って、帰ろ、と握った手を促す。
里紗も美和も、今夜は柴田に翻弄された。
本人はまったく意図してないことだけど、完全に振り回されてしまった。
エレベーターに乗って階下に向かいながら、柴田が美和の言葉の意味を気にして聞く。
「悪いって何が?」
「気付かないところが」
「えー。何? ちゃんと教えてよ」
もうこのまま、私だけ見ていてほしい。
ずっと、誰も目に入らないくらい、好きでいてほしい。
そんなことを思う私も、悪い女かもしれない。
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